欠ける無限、禁忌の術
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ヴァントが絡んでいた。予想外なのは、マスターがいた事。そしてそのマスターが無辜の民草を見捨てず、現地の部隊を掌握して避難していた事だ。
人理という大義に惑わされずに弱者を救う精神、僅か一騎のサーヴァントだけで、敵地のど真ん中から此処まで来れた実力。そしてあの漲る気炎。眩しそうにフィンは目を細める。出来れば敵として出会いたくはなかった。しかしこの邂逅は必然で――人々を害する大悪に荷担している以上、それに対さんとする遍く者と敵対する定めにあるのだ。
「ふむ……」
フィンは目を細める。百名の兵士が彼に従って殿に残った。見たところ練度は然程でもない。しかし侮れはしないだろう。歴戦の英雄であるフィンは知っているのだ。一頭の羊に率いられた百の狼よりも、一頭の狼に率いられた百の羊の方が余程手強い事を。弱兵を精鋭に変えてしまう名将が存在する事を彼は理解していた。
故に彼は叡知を齎す親指を噛む。自前の知略に於いても勇者に相応しいもののあるフィンだが、あの敵に出し惜しむものは何もないのだと感じていた。だからフィン・マックールは洞察する。そして感嘆した。
「サーヴァント一騎で我らを抑え、その間にこちらの兵を磨り潰すつもりか。手強いな」
力が、ではなく。その覚悟が。フィンやディルムッドを同時に相手取って、抑え切れるほどあの女剣士が傑物であるとは感じない。しかしあのマスターは信じたのだ。己のサーヴァントならば、サーヴァントを二騎同時に迎えても抑えてのけるだろうと。そして自分と弱兵だけで、自勢に五倍する勇猛なケルト戦士を殲滅出来るのだと。
返す返すも惜しい。ああいった采配を執れ、そしてそれに弱兵が躊躇わず従えている。それは――とても手強い。同じ旗の下で戦えれば、さぞかし胸が踊ったろうに。
フィンは全力を尽くす。それが礼儀だと思っているからではない。手を抜くという発想が湧かないのだ。得難い強敵を迎えていると確信して、雄敵との戦いに悦ぶ騎士としての本能が疼いた。
「いいだろう、付き合ってやろうじゃないか」
「よろしいのですか、主」
「ああ。如何なる強敵が相手であっても、我ら二人が遅れを取る事などそうはない。それともなんだ、ディルムッド。一対一ではない事が不満なのかな?」
「いえ」
ディルムッドは馬上のフィンの横にピタリと張り付くようにして走りながら応じる。フィンは軽く言うがその顔と声が暗いのと同じく、彼もまた戦意に翳りがあるのは否めない。
「今更我らに騎士道を口にする資格はありますまい。俺が気掛かりなのは、敵の思惑通りに動いてもよいのか、腑に落ちない所にあります」
「動いていいのさ。あの男は手強い、私には分かる。逆に思惑に乗ってやれば、却ってあの男を縛る鎖となるだろう。……野放しにするには危険過ぎる。ある程度はその計算
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