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戦国異伝供書
第三十七話 兄からの禅譲その二

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「ですから」
「あまり飲むことは」
「慎まれて下さい、私も聞いています」
「わたくしの酒のことは」
「はい、毎晩かなり飲まれていますね」
「この場所で」
「それはよくありません」
 こう言うのだった。
「ですから」
「控えてですか」
「言いにくいことですが」
「そうですか、ですが」
「酒だけはですか」
「どうもこれだけはです」
 どうしてもという言葉だった、実際に。
「毎晩飲まずにいられず」
「その飲む量もですね」
「かなりになっています、ただ翌朝残る程はです」
 そこまではというのだ。
「飲んでいません」
「ならまだいいですが」
 直江は一旦納得した、だがそれでもあえて言うのだった。
「お身体を大事にされる為にも」
「慎むべきですね」
「そうされて下さい、まことにです」
「酒は薬にも毒にもなりますね」
「百薬の長と言ったのは王莽ですが」
 異朝の者だ、かつて漢を簒奪し新という国を興したが失政によって国を滅ぼしたことで非常に悪名高い。
「この者は乱を抑えられず気持ちが沈み」
「酒に逃れてでしたね」
「この言葉を出したと言われています」
「そのことから見ても」
「はい、酒はです」 
 まさにという口調での言葉だった。
「過ぎてよくありませぬ」
「そうですか」
「はうい、ですが虎千代様は」
「どうもです」
 少し苦笑いでだ、景虎は直江に答えるばかりだった。
「こればかりは」
「左様ですね」
「酒を飲まずしてです」
「何も出来ませぬか」
「既に酒の毒にやられたのでしょうか」
「そこまではいきませぬがその魅力に惹かれています」
 酒のそれにというのだ。
「それもかなり」
「それが今のわたくしですか」
「はい、人は楽しみがなくては生きられず」
「わたくしは酒ですね」
「そうなります、そこまで酒が好きなら」
 ならばというのだ。
「私もこれ以上はです」
「言いませんか」
「そうさせて頂きます」
「左様ですか、こうして夜になると飲み」
 そしてというのだ。
「そして眠りに入り」
「朝はですね」
「はい、起きて」
 それも朝早くだ、景虎は僧侶の頃から眠る時間は修行の一つとしてあまり取っていないがそれは今もなのだ。
「そしてです」
「学問や武芸に励まれ」
「兄上もお助して」
 そうしてというのだ。
「政にもです」
「励まれていますね」
「そうしています」
 まさにというのだ。
「日々その様に」
「そうですか、そして毘沙門天への信仰もですね」
「それは絶対です」
 景虎の返事は一も二もないものだった。
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