摩耗を抑えて沖田さん!
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」
「ならまた食わせてやる。親父もお袋も……あの調子じゃ亡くしたか、はぐれたか。チビの妹二人、守る為に兄貴として必死なんだろう」
同じ妹分を持つ兄貴として、気持ちはわかる。
「ただし……」
甘やかしのツケは、必ず支払ってもらう。落ち着ける場所に行けたら、雑用としてこき使ってやるよ。そう言うと、沖田は苦笑した。どんだけ甘やかしなんですか、マスターは……なんて。
そりゃあ、お前に甘いぐらいだよ。そうとしか言えない。というか、これは『甘さ』じゃなくて『余裕』って言うんだ。新参のリーダーが張り詰めた面してたら、周りに悪い空気が蔓延してしまう。多少の無茶なんざ、無理にはならない。
俺は立ち上がって、あくまで軽く沖田に言う。
「さ、狩りに行くぞ。野草、木の根、獣……とにかく手当たり次第だ」
沖田はクロスボウを持つマスターを見詰める。
どうしてこの人は、わざわざ険しい道を行き、要らない荷物ばかり背負うのか。
自分の生死が人理修復の旅に、どれほどの影響を与えるか認識していないとは思えない。その上で彼は迷う事なく人を助けている。
何故なんですか、と質問した。
「それは、あれだ。俺は俺の信条に肩入れしている。その為だ」
その信条って、なんですか?
「後悔しない事。心で感じ、頭で考え、肚で決める。俺は俺のする事全てが正しいとは思っていないが、正しく在ろうと心掛けている。そうすれば道は拓ける。拓けなくても、拓く。そうして生きてきた。そうして生きていく」
……。
また一つ、マスターの事が分かった。
この人は底無しに自分を信じてる。真っ直ぐに生きている。自信満々に地獄を進むから、希望があるのだと地獄の底でも彼に続く人は惑わずにいられる。モラルとか、そういうのが壊れてもおかしくない絶望の中でも――この人がいればと、誰しもが信じられる。
助けた現地の人たちも、マスターに光を見た。自分も彼の掲げる旗に『誠』の一文字を見た。だから迷わずに付き従えているのだと漸く解った。
この人は仏様みたいに優しく、鬼のように凄絶で、人らしく在る。鉄のように固い信念、それがこの人の強さなんだ。でも――
「春、そろそろカーターに伝えてくれ。工兵、衛生兵予定の連中をこっちに回せってな」
――鉄は何時か摩り切れる。割れる。砕ける。
そうならないように支えられるのは、自分だけなのだと沖田は思った。本当の意味で彼だけの味方でいられる自分だけが、どうしようもなく眩しいこの人を支えられる。
彼は沖田をハルと呼ぶ。なんて気安い人なんだろうと呆れる反面……そんなにも気安くしてくれる人なんて、新撰組の中でも極一部で。近所の子供達ぐらいなものだ
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