紅の礼拝堂
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向こうから聞こえるような。
そんな錯覚に囚われている。
「ん?」
そろそろ避難民全員の乗船が終わろうかという頃、才人が、唐突に奇妙な声を挙げた。
「どうしたんだいサイト? 突然変な声を出して」
ギーシュが、変なものを見る目で才人を見やる。
「なんか、目がヘンだ」
「疲れてるんじゃねえか?」
「治療、する?」
シェルが、タバサが心配そうに訊いてくる。
「いや、そういうんじゃねえんだ。
なんか、片目だけが霧に包まれてるみたいに……、ヘンな感じに、ぼやけて」
昨夜ゆうべ、キュルケの言っていた言葉が、頭の中を駆けていく。
「新郎、ワルド子爵、ジャン・ジャック・フランシス」
『恋愛は感情によって、結婚は理性によって、って格言はご存知?』
「汝は始祖ブリミルの名において、この者を愛し、敬うやまい、慰め、助け、伴侶とすることを誓うか?」
『この男になら、自分の一生を任せられる。そう理性で納得できないと、結婚したってろくなことにならない』
ワルドは重々しく肯くと、杖を握る左手を胸の前に置いた。
『あなたが、子爵に人生を任せられないと言うのなら……』
「誓います」
『……はっきり断っておあげなさい。それが礼儀よ』だっただろうか。
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
自分の、人生を預ける相手と……。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン」
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
「汝は始祖ブリミルの名において、この者を愛し、敬うやまい、慰め、助け、伴侶とすることを誓うか?」
汝あなたに問うわ。汝あなたは、彼に。
ワルドに、自分の人生を預けられる?
……ルイズは、返事をしない。
わからない。でも、嫌いじゃない。
多分、好きだとも言えると思う。
「……新婦?」
なら。それならば、どうしてこんなに切ないんだろう。
どうして、こんなに気持ちは沈むんだろう。
……なぜ、わたしは、答えに詰まるのだろうか?
やはり、ルイズは返事をしない。
滅び行く王国で、このような式を挙げることがイヤだから?
そうではないと思う。それだけなら、こんなに気持ちは沈みこまなかったはずだ。
「新婦? どこか、具合でも悪いのか?」
では、望んで死に向かう王子に。王子に捨てられた姫さまに、遠慮をしているの?
違う。確かにそれは悲しいことだけれど、答えに詰まる理
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