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fate/vacant zero
白き空の国から
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にまで迫った影を吹き飛ばそうと、杖を振った。

 『突風ガスト』が杖の先から、勢いよく影へと奔る。

 たかが剣士如き、こうして距離さえ空けてしまえば気にすることはない。


 そう、それで充分だったはずだ。

 だというのに、この剣士と来たら。


 わずか一歩。

 わずか一歩、足を横へ踏み出しただけで、紙一重ながらも『突風ガスト』を避けた。


 不可視のはずの風を、この剣士は避けたのだ。

 馬鹿なと叫びたかったが、そんな時間は残されていない。


 それを視認し、理解したコンマ秒後には、影の振るった剣の腹に殴り飛ばされ、体は宙を舞っていた。





「――そう何度もくらってたまるかっつの」



 どがばきゃっ、と平仮名だとコミカルな、実際にはかなり痛い音を立て、殴り飛ばした男は後ろの飛んでる船の船内なかへとホールインワンした。


 ここ数日のうちに、いったい何度『風』の魔法を見たりくらったりしたことか。

 こう何度も何度も繰り返し見せられれば、飛んでくるタイミングぐらいはイヤでも分かるようになる。


 デルフを振りぬいた反動か、ちょっとばかりぴりぴりと両腕が痛むが、今は贅沢を言っていられる場合でもない。

 何かの拍子にデルフを落としたりしないよう、両手でしっかりと握り締め、船尻から下を見遣る。

 雲のせいで、二艘を結ぶロープの下がどうなっているのかはさっぱり分からない。


 ……ギーシュの野郎、うまくやってんだろうな?


 少し不安になりながらも頭を上げ、先ほど唐突にぶっ倒れた男をみやる。

 男は、ぐかーっと高らかに寝息をあげ、大の字になって転がっている。


 タバサの魔法、だよな?


 はて、と先ほど一緒に甲板に降りたタバサの方を振り返ると、なにやらこちらに背を向けて杖を振っているところだった。

 バタドタゴロンと、足を伝わって音が聞こえる。



「今ので全部か?」


 そう声を掛けると、タバサはこちらを振り向き、俺の方にととと・・・と小走りに近づいてきた。

 そのまま俺の前まで来ると立ち止まり、こくりと頷く。



「火傷は大丈夫?」

「ああ、剣を握れないほどじゃないよ。魔法、ちゃんと効いてたみたいだ」

「そう」


 納得したような声はあげているものの、こっちをじーっと見つめてくるタバサ。


 ああ……、心配されるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。

 泣けてきそう。



「……相棒、和んでないで早くしたほうがいいぜ?
 『眠りの雲スリープクラウド』は魔法使いメイジみてえな相手だと、抵抗されて効きが悪くなっちまうから
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