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fate/vacant zero
白き空の国から
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 凶乱に包まれた一夜が明けた。

 山と谷の隙間から朝日が顔を見せ、ラ・ロシェールの町並みを明るく照らしだす。

 その陽射しは、昨夜の騒動の中心だったここ、『女神の杵』亭にも朝を告げる。



 入り口前の表通りでは、崩れ落ちた岩人形ゴーレムの欠片が黄金色に染め上げられ、各々が好き勝手に影を伸ばし、奇妙な景観を形作っている。

 柔らかい陽光の射し込む一階の酒場は、足を砕かれた机や椅子、風に割られた酒瓶やら皿の類がごろごろと転がっている。

 壁には一面、ぎっしりと矢が突き刺さっていて、腕に包帯を巻いた太った店主は、その損害総額を考えて思わず天を仰いでいた。



 そしてその最上階。

 一番上等な部屋の、天蓋つきベッドの上では……



「う、ん…」



 陽射しに照らされる前に起き出すことをすっかり義務づけられてしまった才人が、魘うなされながらも意識を取り戻そうとしていた。









Fate/vacant Zero

第十六章 白き空の国から







「……ぅぁ?」



 寝ぼけた声をあげて、才人は瞼まぶたを開いた。

 ぼやけた視界に映っているのは、昨夜や今朝方も見たベッドの天蓋やね。


 ……はて、なぜ俺はこのベッドに寝ているんだろうか?

 確か、俺はルイズたちの囮になって、タバサと一緒に傭兵連中を――


 目を擦ろうとした手がずきりと痛み、思わず歯を噛みしめる。

 いったい何事かと、その眼前に掲げられた手を眺ながめてみた。



「……うげ、なんだこりゃ」


 才人の腕は、ぶっちゃけグロいことになっていた。


 血管は片っ端からみみず腫れになっててマスクメロンみたいだわ、肌はなんだかピンク色に変色しているわ、非常に肉感的(誤用)で生々しい。

 あと、一張羅のパーカーが何故だか半袖になっていた。

 逆の腕も掲げてみたが、まったく同じ状態である。



 そういえばあの仮面男の魔法からタバサたちを庇ったんだっけ。

 ようやく昨夜の最後の出来事を思い出してきた。



 ――そうだ。


 あの後、どうなったんだろう。

 タバサやシェルンノスは、無事だろうか?


 それが気に掛かり、この部屋に居ないだろうかときょろきょろと見回してみる。


 床にはヴェルダンデが丸くなり、デルフリンガーは自分のベッドの枕元に立て掛けられているのを見つけた。

 だが、もう一つのベッドは空っぽで、シーツの上に木彫りの人形が二つ転がっているだけだった。


 タバサたちの姿は、無い。

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