第二部
風の驚詩曲
乳姉妹の憂鬱
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ないのだから。
二人の姉たちは、成長してからはそれぞれ魔法を覚えるのに忙しかった。
地方の太守である父は、軍務を放れてからは近隣の貴族との付き合いに外を出歩くことが多かったし、そもそも彼は狩猟の方が好きだった。
厳格な母は、娘たちの教育と年頃に至った上の姉の嫁ぎ先以外へ、興味を向けることもなくなっていた。
忘れ去られた中庭の池と小船を振り返るものは、今となってはルイズだけだ。
嫌なことがあったり、両親や上の姉に叱られたりしたとき、この小船ボートへと忍び込む。
そして丁度今のように、用意してあった毛布に包くるまって、じっと思考と反省と対策に耽るのである。
数分か、それとも数時間か。
奈何せん夢の中のことなので時間は意味を失っているが、まあそれはどうでもいいことだ。
ともかく少しの時間が流れ、小島の東屋の中からマントを羽織った一人の身なりのいい青年が現れた。
年の頃、己の使い魔と同じくらい。
夢の中のルイズより、十ばかり年上のように見てとれる。
その青年は、ぱしゃり、ぱしゃりとルイズの潜む小船ボートの隣まで、水面みなもを歩いてきた。
「泣いているのかい? ルイズ」
聞き覚えのある声に、身を起こす。
視界に映るその面持ちは、黒くつばの広い羽根突き帽子に目元が隠されていたものの、それが誰かはすぐに解した。
ラ・ヴァリエール領のお隣の領地を相続した年若い貴族。
晩餐会をよく共にした、ルイズの憧れの男性。
「子爵さま、いらしてたの?」
慌ててルイズは涙に濡れた頬を両手で隠した。
憧れの人にみっともないところを見られてしまい、かーっと顔面に血が上ってくる。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あの"約束"のことでね」
「まあ!」
ルイズは心配になるくらい顔を赤に染め、とうとう俯うつむいてしまった。
父と彼との間で交わされた約束は、ルイズにとっては嬉しくも、くすぐったくて恥ずかしい、そんな大事な約束であった。
「いけない人ですわ、子爵さまは……」
「ルイズ。ぼくの、小さなルイズ。きみは、ぼくのことが嫌いかい?」
おどけた調子で、子爵が応えた。
ふるふると、慌ててルイズは首を振るう。
「いえ! そんなことはありませんわ。
でも……、わたし、まだ小さいし、よくわかりません」
子爵の帽子から覗く口もとが、ふっと緩んだ。
つられて笑顔になったルイズに、そっと手が差し伸べられる。
「あ……、子爵さま……」
「
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