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土塊つちくれの巨人
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 『土塊つちくれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に震え上がらせている盗賊がいる。

 それは、栗鼠フーケと名乗るただ一人きりの魔法使いメイジである。


 彼の者、北の貴族の屋敷に、宝石の鏤ちりばめられた浸透銀ミスリルのティアラがあると耳にすれば、繊細に忍び込んでこれを盗み出す。

 南の貴族の別荘に、先帝から賜りし家宝の杖があると知れば、別荘を粉々に破壊してこれを頂戴する。

 東の貴族の豪邸に、白の国アルビオンの細工師が腕によりをかけて作った真珠の指輪があると聞けば、白昼堂々とこれを奪い去り。

 西の貴族の酒倉に、値千金百年ものの鈴ワインがあると見れば、夜陰に乗じてこれを拝借した。


 その様、正しく神出鬼没の大怪盗。現代魔法使いメイジ最悪の愉快犯。



 それが土塊つちくれのフーケの、一般に知られる焦像である。

 フーケは事あるごとに手管をがらりと変えるため、トリステインの治安を預かる王室衛士隊の魔法衛士たちは、事あるごとに彼かの思うがまま煙に巻かれているのだ。



 だが、その気分屋な仕事ぶりにも、一つだけ共通している点があった。


 フーケは、狙った獲物の在り処に忍び込む時には、必ずと言っていいほど『錬金アルケミー』を使う。

 扉や壁を『錬金アルケミー』で砂や粘土に変え、苦もなく侵入して目的を達するのだ。



 無論、トリステイン貴族とてただのバカではない。

 フーケの手口が噂として出回ってからというもの、強力な魔法使いメイジに依頼して掛けられた『抵抗レジスト』の魔法で、屋敷の壁や扉を守っている。



 にも拘らず、なぜフーケは大怪盗の名をほしいままにしているのか?



 答えは単純だ。

 フーケの魔力が、『抵抗レジスト』をかけた魔法使いメイジの魔力を上回っている。

 ただそれだけのことである。


 たいていの場合、扉や壁は掛けられた『抵抗レジスト』ごと土塊つちくれへと変貌してしまうのだった。

 しかも、これはまだマシな方だ。


 『抵抗レジスト』を破れないとフーケが判断した場合、次は力尽くの手段を講じてくる。

 ひたすらにでかい土人形ゴーレムで、『抵抗レジスト』が掛かったまま壁や扉を屋敷ごと・・・・打ち壊す。


 先述のとある貴族の別荘などは、身の丈30メイルを超す巨人に、ホールを丸ごとぶち抜かれたというからたまったものではない。

 それこそ、城ですらも壊せそうな規模だ。まともな物質で防げるようなシロモノではないのである。


 斯様に、時に繊細に、時には豪快に盗みを働くフーケであるが、未だその正体を知るものは誰もいない。


 年齢は不明。性別も
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