暁 〜小説投稿サイト〜
fate/vacant zero
黒の地下水
[1/16]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
Fate/vacant Zero

第四章 後編 黒の地下水









 さて、目的地であるグルノープルの街に到着した一行は、街をあげての盛大な歓迎を受けた。

 アルトーワ伯は、街門まで王女の一行を迎え上がりに来た。


 王家の分家筋であるアルトーワ伯は、やはり珍しい青髪の持ち主であった。

 ただし、その色にタバサやイザベラほどの鮮やかさは無く、ちょっとくすんだ冬空の色といった感じだ。


 老いて痩せた身体をゆっくりと折り曲げ、アルトーワ伯は一礼した。



「これはこれは、イザベラさま。ようこそ、グルノープルへ。
 我ら一同、殿下の行幸を首を長くしてお待ちしておりました」


 それからアルトーワ伯は、目を見開いてイザベラタバサを見つめた。

 ばれたのだろうか? と一瞬身を固くしたイザベラタバサだったが、相当強力な『解析ディテクト』でも掛けねば、『仮面フェイスチェンジ』は見抜けない。

 しかし、高貴のものに『解析ディテクト』をかけるなど、最大級の侮辱である。

 真っ当な思考を持っていれば、一発で怪しまれるのは分かりきっていることだ。できようはずもない。

 どうやら、心配は杞憂に終わりそうである。


 アルトーワ伯は人のよさそうな笑みを浮かべた。


「さらにお美しくなられましたな。
 リュティスに比べれば何もない田舎町ですが、どうぞおくつろぎくだされ」









 イザベラタバサたち一行は、アルトーワ伯の屋敷に通された。


 園遊会の催しは明日であるが、既に庭園にはパーティーの準備がなされていた。

 園遊会の目玉は、近在の貴族たちが行う『春の目覚め』というダンスである。


 地方貴族にとって、ダンスや歌は気のきいた暇つぶしなのだ。

 何かあるたび、演劇や詩歌の会が催される。

 このような園遊会は、絶好の披露のチャンスなのである。


 そのための大きな舞台が、庭園には用意されていた。





 イザベラタバサが案内された部屋は、一番上等な客室であった。

 王女には、どこであれ最も上質なものが与えられるのだった。

 アルトーワ伯は、夜になったら晩餐会が開かれるので、是非とも出席いただきたいと言い残して去っていった。


 窓の側に立つとシルフィードが嬉しそうに降りてきて、イザベラタバサの顔を舐めようとした。

 のだが。

 当然そこは窓ガラスである。

 シルフィードの舌はザラリと窓ガラスと窓枠を舐めただけだった。

 哀しそうに啼きわめく「きゅーん」という声は、なんだか子犬を連想させる響きだった。



[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ