黒の地下水
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Fate/vacant Zero
第四章 後編 黒の地下水
さて、目的地であるグルノープルの街に到着した一行は、街をあげての盛大な歓迎を受けた。
アルトーワ伯は、街門まで王女の一行を迎え上がりに来た。
王家の分家筋であるアルトーワ伯は、やはり珍しい青髪の持ち主であった。
ただし、その色にタバサやイザベラほどの鮮やかさは無く、ちょっとくすんだ冬空の色といった感じだ。
老いて痩せた身体をゆっくりと折り曲げ、アルトーワ伯は一礼した。
「これはこれは、イザベラさま。ようこそ、グルノープルへ。
我ら一同、殿下の行幸を首を長くしてお待ちしておりました」
それからアルトーワ伯は、目を見開いてイザベラタバサを見つめた。
ばれたのだろうか? と一瞬身を固くしたイザベラタバサだったが、相当強力な『解析ディテクト』でも掛けねば、『仮面フェイスチェンジ』は見抜けない。
しかし、高貴のものに『解析ディテクト』をかけるなど、最大級の侮辱である。
真っ当な思考を持っていれば、一発で怪しまれるのは分かりきっていることだ。できようはずもない。
どうやら、心配は杞憂に終わりそうである。
アルトーワ伯は人のよさそうな笑みを浮かべた。
「さらにお美しくなられましたな。
リュティスに比べれば何もない田舎町ですが、どうぞおくつろぎくだされ」
イザベラタバサたち一行は、アルトーワ伯の屋敷に通された。
園遊会の催しは明日であるが、既に庭園にはパーティーの準備がなされていた。
園遊会の目玉は、近在の貴族たちが行う『春の目覚め』というダンスである。
地方貴族にとって、ダンスや歌は気のきいた暇つぶしなのだ。
何かあるたび、演劇や詩歌の会が催される。
このような園遊会は、絶好の披露のチャンスなのである。
そのための大きな舞台が、庭園には用意されていた。
イザベラタバサが案内された部屋は、一番上等な客室であった。
王女には、どこであれ最も上質なものが与えられるのだった。
アルトーワ伯は、夜になったら晩餐会が開かれるので、是非とも出席いただきたいと言い残して去っていった。
窓の側に立つとシルフィードが嬉しそうに降りてきて、イザベラタバサの顔を舐めようとした。
のだが。
当然そこは窓ガラスである。
シルフィードの舌はザラリと窓ガラスと窓枠を舐めただけだった。
哀しそうに啼きわめく「きゅーん」という声は、なんだか子犬を連想させる響きだった。
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