黒の地下水
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必要があるようですな」
タバサは倒れた男を見つめた。
まだ若いのに、随分と強力な使い手である。
この歳で、『スクウェア』クラスとは……ん?
何かいま引っかかった気がする。はて。
男を、もう一度注意深く見てみると、奇妙なことに気付いた。
着衣に、まったく乱れが見られないのだ。
魔法の攻撃を受けた場合、その痕跡が何かしらの形で残るはずである。
『火』であれば焦げ痕が。
『風』であれば切り傷が。
『水』であれば、当然ぐっしょりと。
『土』であるのなら……、衣服がどうたら言う問題ですらない。
辺り一面土まみれになるか、そうでなければ体の原型も残らないだろう。
だがそんな痕跡など、衛士の衣服はもちろんのこと、舞台にもまったく残っていない。
……と、いうことは?
カステルモールをじーー……っと眺める。
彼はロープとナイフを取り出すと、衛士を縛り始めた。
なんだか、とっても既視感デジャヴな光景。
と、いうことは。
抑揚の欠け落ちた小さな声で、杖でソレを指さしながらタバサは尋ねた。
「そのナイフ、どうしたの?」
「え? ああ、彼が持っていたんですよ」
そう答えたカステルモールは、ナイフを持ったまま振り向きざまに杖を抜いた。
しかし、流石に今度ばかりはタバサが早かった。
彼が杖を向けた時、既に詠唱は終わっていたのだから。
杖を振り下ろし、『凍える風ウィンディアイシクル』が宙を駆ける。
氷の矢は、その全てがカステルモールの左手へと集中した。
「くッ!」
カステルモールは咄嗟に身を捻ってかわそうとしたが、一本の氷の矢が左の手のひらを貫通した。
ナイフがその手から滑り落ち……、同時に、糸の切れた操り人形マリオネットのごとく、カステルモールが崩れ落ちた。
それでもなおタバサは油断せず、次なる呪文を詠唱する。
大気が震え、小さな稲妻が周囲を走る。
『雷撃ライトニングクラウド』。
殺傷能力が非常に強い『火』と『風』の上位魔法ラインスペルを、タバサは解き放つ。
稲妻は、カステルモール……
が手放して地面に突き立っていた短剣を直撃し、まとわりついた。
その瞬間、
「ぅぎぃああぁあああぁあああああぁああああ!?」
と、よく通る低い声バリトンで悲鳴が上がった。
無論、それはカステルモールからでも倒れた衛士からでもなく……、『短剣』からである。
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