黒の地下水
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るとは思いませんでした」
「ふん、お世辞はいらないよ。あいつが単純にすぎるだけなんだからね。
読めないあんたの方がどうかしているのさ」
イザベラは大きなあくびをした。
目の前では、ちょうど園遊会の目玉であるダンスが行われているところである。
庭園にしつらえられた舞台の前、イザベラは家臣を従えて一番前の席に座っている。
隣にはアルトーワ伯の姿も見える。
彼は会うなり昨日のことを尋ねてきたのだが、イザベラは「軽い謀反騒ぎだ」との説明のみを行い、放置した。
適当にあしらわれたアルトーワ伯は憤慨したが、首を突っ込んでこれ以上面倒ごとに巻き込まれてはかなわぬと悟ったのか、それ以上は尋ねてこなかった。
「それで? あんたは、これからどうすることになったんだい」
「はい。当面、"地下水"は廃業になりそうですなぁ」
「そうかい。
――あいつのこと、よろしく頼むよ?
無茶しないよう、ちゃんと手綱を引っ張ってやっとくれ」
「……ええ」
舞台では、演目がたけなわであった。
薄い布を幾重にもまとった美しい娘たちが現れて、春の訪れに対する喜びを表現し始めた。
鮮やかな、咲き乱れる花のような見事な踊りであった。
イザベラは、その典雅な踊りに見入った。
「ただ、困ったことが一つございまして」
"地下水"が囁くようにイザベラに告げたが、移り気な今のイザベラは、すでにダンスに夢中であった。
「あとにして。今、ダンスが面白いのよ」
「では……、お渡ししておきます」
すっと差し出されたソレを、イザベラは反射的に握った。
「……ん? これは」
なんだい?
イザベラは手に握ったそれを見つめようとしたが、体が言うことをきかない。
これって、と呟いたつもりだったが、声も出ないことに気付いた。
"姫殿下。実は、七号殿との契約の際、ちょっと厄介なことになってしまいまして"
"地下水"の声がダイレクトに心に届く。
間違いない。いま握らされたのは、"地下水"自身だった。
右手に光る、交差する輪の鍔つばを持つ銀色の短剣。
自分の体はいま、"地下水"に乗っ取られている。
『や、厄介なことってなにさ』
あまりイザベラは動揺していない様子だったが……、それでも、自分の体が急に立ち上がったのには少し驚いたらしい。
"ええ。姫殿下の予想を、一つだけ七号殿が越えてしまいまして。
あることを貴女の体を用いて行え、という条件を契約条件の満了のために示さねばならなくなったのですよ"
ぴしりと、固まった(もとよ
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