黒の地下水
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そんな泣き声が34を数えた頃、侍女姿のイザベラがドアから入ってきた。カステルモールを連れている。
窓の外でそれに気づいたシルフィードが、慌てて上空へ逃げ出す。
「アルトーワ伯をどう思う?」
開口一番、イザベラに尋ねられたイザベラタバサは、素直に思ったことを口にした。
「普通の貴族」
正直どこにでもいそうな、温厚で人のいい地方貴族であった。
反乱を企図するような人物には思えない。
そこまで告げると、にやーっとイザベラの口元が歪んだ。
「そういう奴に限って、腹で何を企んでるかわからないものさ。逆もまた然り、ってね。
ところで昨晩は早々に"地下水"に襲われたそうじゃないか。衛士たちが噂していたよ」
イザベラタバサは頷いた。
「身内に襲われる気分はどうだい?
おちおち眠れもしなかっただろう?」
再度、イザベラタバサはこくりと頷く。
「あたしはね、いつもああいう恐怖に耐えながら過ごしているのさ。
いつ家来や召使に寝首をかかれるやら、わかったもんじゃないからね。
今この瞬間だってそうさ。例えば、そう。
そこのカステルモールが唐突に杖を突きつけて『風』をぶっ放したりしないか? ……なんてね」
笑ってそう言ったイザベラに、カステルモールは一瞬ぎくりとしたが、イザベラにとっては背後になっていて見えなかった、と思う。
「まあ、あんたもせいぜい、そういう恐怖に怯おびえてもらうよ。
いまの自分の境遇が、どれほど恵まれているか分かるはずさ」
相変わらず笑いながら、イザベラは部屋を出ていった。
残されたカステルモールは、イザベラの姿が見えなくなって5秒後に再起動し、深く一礼した。
「隣の部屋にいながら、シャルロット様への無礼なる仕打ちを止められぬとは……、お詫びの言葉もありませぬ。
昨晩はあの王女を僭称する娘により、宿の外の警備を申しつけられまして……」
どうやら、イザベラタバサの護衛を申し出るも、イザベラにより却下されたらしい。
「別にあなたのせいじゃない」
イザベラタバサがそう慰めると、感極まった面持ちになり、カステルモールは片膝をついた。
「もったいのう、もったいのうございます……」
イザベラタバサの部屋を退出したカステルモールは、一人の衛士とすれ違った。
護衛隊の一人である。なにやら、呆けた面持ちだった。
「おい」
と彼は、その衛士を呼び止めた。
彼は振り返るとまじまじとカステルモールを見つめ……、一本の短剣を、恭しく差し出した。
む
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