雪のヴェール
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人口は三十万にも及び、名実営土においてハルケギニア最大の都市となっている。
その大都市の最東端に、巨大かつ壮麗なガリア王族の執務所にして居城、『ヴェルサルテイル宮殿』は君臨していた。
かつて森だったここを開拓し美しく偉大な荘園を造り上げたのは、先々代の王:ロベスピエール三世。
そして現在の主であるジョゼフ一世は宮殿の中心、薔薇色の大理石で組み上げられたグラン・トロワ宮に座し、政務の杖を握っていた。
──さて。概要を語っただけで随分と行を稼いでしまったが、そのグラン・トロワ、ではなく。
グラン・トロワよりさらに奥、並ぶ親子のように建てられたルイズの髪のような色の宮──ロベスピエール三世が後宮として造りし、プチ・トロワ宮。
その主のために執務室として設けられた一室が、この一幕の舞台である。
その一幕を作る原因となった少女はその一室で、非常にだらしのない格好をして暇を持て余していた。
年のころは17ぐらいだろうか。
その頭を彩るは、細く凛々しい切れ長の瞳に、その瞳の色と同じ蒼の金髪ブロンド。
その色はガリア王家の血を引いていることを明確に、わかりやすく他人に伝える効果を持つ、王家特有の色である。
肩まで伸ばされた蒼髪は丁寧に梳かれ、扇の起こす風に絹のようにさらさらとそよいでいた。
前髪は頭上の無闇に大きく豪華な冠に持ち上げられ、滑らかな額が大いに自己主張をしている。
そして苦労をサボらされている唇は、つやつやと艶めかしく輝いていた。
紅で真っ赤に彩られた唇を舌で拭う粗野な仕草も、何故かこの少女には似合ってしまうのが不思議だ。
品が無い分を差し引いたとしても、である。
このなんとなく高貴さを感じさせない少女こそが、現王ジョゼフ一世の娘。
ガリア王国王女、イザベラである。
イザベラは肌着一枚の格好でベッドに鬱伏せに寝そべり、長く蒼い髪を指で弄っていた。
すらりと伸びた肢体は色艶著しいし、顔立ちも美人ではある。不機嫌げな面を崩さなくとも、だ。
だが実に不思議なことに、頭に乗っかった豪奢な王冠こそが、彼女の美点を尽く帳消しにしてしまっている。
傲慢さと退屈の強く浮き出た、気怠けだるげな澄んだ声で――どんな声だと訊いてはいけないし訊かれても説明出来ないが――イザベラは侍女を呼びつけた。
「あの、人形娘はまだ戻らないのかい?」
今日の彼女は、一段と機嫌が悪いようだ。
呼びつけられた侍女は険の強い視線に脅え、本能的に俯いてしまった。
「え……、えっと、その……、シャルロットさまは──────ッヒ!?」
その名を
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