雪のヴェール
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臭いはこれといってしないが……、『水』系統のプロが差し出してくるお茶だ。
何が入っているやら知れたものではない。
「ああ、お茶なら何も入ってはいませんよ。
盛るつもりなら、時間と場所ぐらい選びますから」
そこまで言うとふと考え、
「そういえば今はそういう場合に選ぶような時間と場所でしたか。これは失礼」
と訂正する侍女="地下水"の仕草はあまりに自然にちじょうてきで、それが殊更ことさら異常を煽る。
「わたしをさらうの?」
イザベラタバサが尋ねると"地下水"は、懐から短剣とロープを取り出し、短剣を突きつけてきた。
「はい。それが依頼者より、私めが受けた任務ですゆえ」
「依頼者というのは、アルトーワ伯?」
イザベラタバサは、直球でこれから訪問する予定の貴族の名をあげた。
どうも、駆け引きに関しては年相応のものしか持っていないらしい。
地下水はその質問に、ただにっこりと微笑んだだけであった。
「さて……、できれば、大人しく捕まっていただきたいのですが。
騒ぎになるのは私の趣味ではありませんし。それに、姫殿下のような高貴なお方には、乱暴を働きたくないのです」
丁寧な一礼。
その堂々としたバカ丁寧な仕草は、彼女の自身を裏付けていた。
イザベラタバサは弾はじかれたように立ち上がると、呪文を唱えて杖を振った。
「Lunar 襲え、Magnus 膨大なVentosus大気よ――」
ぶわり、とイザベラタバサの目の前の光景が膨らみ、歪む。
巨大な圧縮された空気の塊が完成し、侍女姿の"地下水"を襲うが……、咄嗟過ぎて詠唱の声ルーンをはっきり発音したのは拙かった。
"地下水"は右手に身を擦り倒れさせると、空気の塊をあっさりとかわす。
ただの人間に出来るような動きではない。
外れた空気の塊が壁にぶちあたって四散する間に、イザベラタバサが次の魔法を打ち出す。
上手く詠唱を隠しきり、"地下水"に飛来するのは『風刃エアカッター』。
普通なら見えるはずのない空気の裂け目ソレをも、奇妙な、つるりとした挙動でひらりひらりと避けていく。
"地下水"の体術は相当レベルが高いようだ。
床に、壁に、避けられた風の刃が突き刺さり生々しい傷跡が残されていくのを傍目に、タバサは杖を構えなおした。
当たらない攻撃呪文ではいくら唱えても意味が無いし、人の精神力には限りがある。
無意味に唱えていては、あっという間に意識が枯渇してしまうのだ。
だが、この状況下で唱えないわけにもいかない。
イザベラタバサは無表情の裏に、
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