古の伝説
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負けてしまう!
その恐怖が焦りとなり、余裕も威勢もかなぐり捨てて杖を振るわせた。
いま残された花弁ざいりょうは六枚。
出し惜しみなんてしている余裕はなかった。
生み出したゴーレムたち全てに疾風はやてのイメージをねじ込んで、奴・を一息に押しつぶさせる。
つぶさせた、はずだった。
飛び掛ったゴーレムのうち五体まではその受けることもできず、瞬く間に木偶でくでも割るように刻まれていた。
がしゃん、ぐゎんと緑色の腿が手首が槍が胴が肩が鎧が半面が、断ち割られた幾つもの全身が、奴・の周囲でけたたましく草に沈んだ。
いま、振られていたのは本当に僕の錬金なのか?
剣閃きせきが見えない。速すぎる。
あんな速さで剣が振れる人間が居るなんて――。
――人間? いや、ちょっと待て。
今そこに剣を振りぬいた姿で迫り、鷹のように目を据わらせる男は何だった。
あれが今、この地を駆けることができるそもそもの原因は何だった?
まさか、と。それに思い至った時、奴・が再び動いた。
最後に残されたゴーレムを、咄嗟に自分の前に戻したが、それすら瞬またたきと保たず心中線から左右に殺ばらけた。
「ひ――」
鼻先を掠めた剣の風が、鼻先を裂いて血を流す。
奴・が、そのままこちらへ突っ込んでくるのが見えた。
首やられる。
そう思った時にはもう、頭を抱え込んで伏せていた。
ザシ、と首先で乾いた音がした。
死んでも音は聞こえるのかと、間抜けにも当事者になって初めて知った。
そう思ったのだが、思うこと数秒。
いつまで経っても痛みが訪れず、痛いほどの静けさが確かな音として耳を打つ段になって、ようやくそれに違和感を覚えた。
いやな汗にまみれ、それを不快だと感じる背中がある。
死の恐怖に震え、がたがたと震える腕が動かせる。
吹き抜ける春の風を、涼しく感じる体がある。
生きて、いる。
どういうことだと、おそるおそる目を開ける。
すると剣は、顔の真右。
ほんの、数サント離れた場所に突き刺さっていた。
「……続けるか?」
呟くように聞こえた、奴・……、彼奴・の、声。
そうして。生かされたのだ、と悟った。
自分が。負けたのだ、とも。
負けてしまったのだ、とも。
……負けられたのだ、とも。
決闘を続ける気力も余裕
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