些細ささいな昼下り
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暇つぶしの引き出しがなくなってきた彼は、おもむろに「うむ」と頷いて机の引き出しを開ける。
中には、彼愛用の水煙管キセルが鎮座していた。
これは煙草を燃やす本来の煙管キセルとは違い、微量の香魔法薬フェロモンを使う。
香魔法薬フェロモンとは、空気に触れるだけで緩く沸騰する、薫り高い液体である。
水キセルの吸い口とは逆側、大きく丸く膨らんだ所にその水薬を入れ、尖とがった薬口から出てくる蒸発した魔法薬に火を灯し、吸い口に口付ける。
香りは格段のものであり、ヤニなどが出ることもないのだが、吸った時の感覚や中毒性はタバコのソレよりも強かったりする。
タバコ的用法の酒といえば近いかもしれない。
そんなわけで、部屋の端に置かれた机に向かい書類仕事をしていた彼の秘書が、こんな時間からの道楽を許すはずも無く。
無常にも水キセルはオスマンの手をすり抜け、羽ペンを一振りした秘書、ミス・ロングビルの手元へと飛んでいった。
つまらなそうかつ寂しそうに、オスマン老が呟く。
「年寄りの楽しみを取り上げるのは、そんなに楽しいかね? ミス……」
「オールド・オスマン。主あるじの健康を管理するのも、秘書わたくしの仕事なのですわ」
オスマン老は椅子から立ち上がると、理知的な顔立ちが凛々しい、ミス・ロングビルに近づいた。
椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、仰々しく目を瞑つむる。
「こう平和な日常が続くとな、時間の過ごし方というものが、思ったよりも難題になってくるのじゃよ」
そう呟くオスマン老の顔に刻まれた皺しわは、彼の過ごしてきた歴史を物語るかのように深く、濃い。
彼の齢は300を越えている。そう証した男がいた。
彼と話したオスマン老の言葉には、それだけの重みがあったのだ。
いやいや彼は精々で100歳程度だろう、と嘯うそぶく女がいた。
常識的に物事を捉える者にとって、ヒトの身で300を数えるなど、どのような絵空事に映ったことだろう?
そうかと思えば、彼はハルケギニアの創世より生を受けています、とのたまった老人もいた。
これは、『この老人が子供の頃にはオスマン老がすでに今の風貌であった』、そういう証言と取れなくもない。
ないが……、人間である彼が千年を超えて生きることは流石にないハズだ。
いや、筈だ、というのが既に常識の鎖の成し事なのかもしれないが。
ともあれ。彼の年齢については以上のように様々な憶測が交錯しながら流れている。
つまるところ、誰も本当の年齢は知らないのである。
ひょっとしたら、本人も含めて。
「オールド
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