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人理を守れ、エミヤさん!
地獄の始まりだよ士郎くん!
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 士郎は渓谷を駆ける。谷の壁に剣弾を無数に撃ち込み炸裂させ、瓦礫の山を築き後方からの追撃を断った。既にペンテシレイアの存在は意識の外に締め出している。沖田の顔色が悪い。その背を労うように軽く叩き、士郎は騒然とする軍の部隊と難民達を見据えた。
 道を塞がれ愕然とする彼ら。しかし安堵も何処かにある。挟み撃ちにされそうだったのを、絶望と共に悟っていたのだ。
 だがそのすぐ背後から、千余りのケルト戦士の軍勢が迫っている。どのみち死は近い。
 己にも向けられる警戒と怯えの眼。理解不能な剣弾を見たからだ。だが士郎はまるで物怖じせずに胸を張り、堂々と――自信と自負を隠さずに、前面に押し出して大声で彼らに語りかけた。

「俺は敵じゃない。お前達を助けに来た」

 鏖殺への恐怖に染まった彼らの耳に、その鉄の芯の籠った声は染み渡った。
 絶大な自負は、救い主を名乗る男に後光すら差して見せているかもしれない。沖田はその主人の背中を見ている。眼を見開き、己のマスターの力強い断言に惹かれている。



「時間はない。だから選べ。
 此処で死ぬかッ!
 それとも俺と生きるかをッ!
 二つに一つだ、まだ死にたくない者だけが俺の背に続けッ!!」



 極限の状況の中に多弁は不要。提示される究極の選択肢。直前に見せた超常的な力。
 男は待たなかった。彼らの真ん中を切り裂くように走る。そしてすぐそこまで迫っていた戦士の軍団に突貫していく。
 虚空に幾つもの剣弾を現して、次々と放つその姿。沖田は感じた。令呪を。何があろうと戦い抜けと。躰が軽くなる。病の発作が一時的に治まった。
 その感覚に。その命令に。嘗て戦い抜く事が出来なかった天才剣士は歓喜した。遅れてはいられないとその背を追う。

 残された人々の前には、剣が突き立っている。

 銃は効かない。かといって剣を取っても戦える者など軍人しかいない。故にそれを執るとしたら戦う意思表示に他ならず。
 心の折れていなかった軍人の一人が剣を執ると、次々とその剣を握る者達が続いた。

「お、」

 恐怖に塞き止められていた本能が吼える。
 死にたくない、死にたくない――なら戦うしかない!

「おおおおお――ッッッ!!」

 眼帯の男に続けと、男達は奮い起つ。女達は祈りを捧げる。

 ――此処に、最新の英雄に付き従う者達が生まれた。






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