地獄の始まりだよ士郎くん!
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見開く。
並みの暗殺者なら。否、例え英霊として祀られる暗殺者であろうとも、襲撃者が眼前に現れたのなら女王は応手を誤らなかっただろう。
だが相手は壬生の狼。数多の剣豪集う新撰組に於いてさえ恐れられた『猛者の剣』である。気配を絶ち、間合いを縮め、姿を現すなり見舞うは防御不能の対人魔剣。魔法の域の剣戟の極致。
軍神の血が反応させた。咄嗟にペンテシレイアは手甲の手爪、剣を交差させて防御を選択する。
――放たれる沖田総司必殺の魔剣。
『壱の突き』に弐の突き、参の突きを内包する三連の刺突。平正眼の構えから『ほぼ同時』ではなく『全く同時』に放たれる平突きが唸る。
壱の突きを防いでも同じ位置を弐の突き、参の突きが貫いているという矛盾の為、引き起こされる剣先の事象飽和。その秘剣・三段突きは事実上防御不能の剣戟である。ペンテシレイアの鉄爪、鋼の銘剣を――事象飽和を利用しての対物破壊によって刳り貫いて。ペンテシレイアは本能的に身を捻っていた。
「かはっ――」
左脇腹を『貫かれた』のではなく、刳り貫かれ『消滅』したような傷。風穴を躰に空けられた女王が膝をついた。
「チッ」
沖田が舌打ちする。仕留め損ねた。だが拘らない、仕損じるのも想定の範囲。沖田はペンテシレイアを一顧だにせず、主人に縮地で一瞬にして追い付き、その血路を開くべく刃を振るう。血風吹き荒ぶ天才剣士の剣の結界が主の通る道を作る。
走り去る男へ向けてペンテシレイアは吼えた。屈辱に打ち震えながらも。彼女は悟っていた。あの男は『マスター』だ。サーヴァントを使役する男だ。なら問うべきはサーヴァントではない、サーヴァントはマスターに使われる武器でしかないのだ。故に、
「貴様ぁ……! 名を名乗れ、覚えてやる……!」
天地を震わせたのではないかと感じさせるほどの怒号。男は小揺るぎもせず、一瞬だけ視線を背後に向けるとペンテシレイアに言った。
「いずれ知る。それまで精々、生き恥を晒せ」
「は――」
重傷である。追える躰ではない。故にペンテシレイアは敗北を噛み締める。
ペンテシレイアは想う。そうだ、これこそが戦いだ、本当の戦いだ。そして、それに己は――敗れた。なんたる屈辱、ペンテシレイアは雪辱を誓い怒号を発した。
「――いいだろう、貴様はこの私を出し抜き勝利した。ならばこれより私は、貴様に焦がれる。なんとしても殺してやるぞ、是が非でもこの手で潰してやるッ! 私に殺されるその時まで、この大地で見事生き抜いてみせろ、英雄ッ!」
狂ったように哄笑する女王を背に鉄心の男は疾走する。ただの一度も振り向きもせず。
そうだ、それでいい。そのまま走れ、遠くへ行け、何処までも追い縋り、その首を圧し折ってくれる――
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