地獄の始まりだよ士郎くん!
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よ! 陣に入れず跳ね返し、そのまま突き殺せ! 軍神の血を引く女王の覇気が、ケルト戦士を過不足なく統率せしめる。個々が好き勝手に蛮勇を振るってなお武勇に長けた戦士が、卓越した指揮官の手綱によって一糸乱れぬ隊列を組む。
真っ向から突っ込むのは単騎。浅黒い肌に、撫で付けられた白髪、左目を覆う眼帯――鋼じみて固く、青い炎のように熱い冷酷な眼光……。破れかぶれの特攻ではないとペンテシレイアはすぐに気づいた。歴戦を踏破した勇者だけが持つ『なにか』がある。幾度もの死地を征服し、死の危機を勝機に転じる威風がある。そうと察した瞬間に女王の威が膨れ上がった。渓谷に追い詰められてくる雑魚どもよりも、己はこの男一人を敵とせねばならない――
「――……ァアアァアァアアアッッッ!! 勇を奮えッ! 力を翳せッ! そして殺せェッ!」
軍神咆哮。その身に宿す軍神の血を呼び起こす閧の声。女王より発される莫大な戦意が戦士として自陣に立つ者を奮い立たせ、軍神に率いられたが如くその叫びを伝播させていく。
軍勢が叫ぶ。嘗て敵対したあらゆる軍集団が震え上がった閧の咆哮。しかし、肌を打つ音の打撃にも全く怯まぬ鋼の心――異形の双剣銃をだらりと下ろした男がカッと眼を見開いた。来る、とペンテシレイアの全神経が研ぎ澄まされた。
虚空に投影されるは神造兵装。その投影工程を全てキャンセルする事で、ハリボテとして打ち出される超質量。斬山剣とも称されるそれは全長数十メートルにも及び、『虚・千山斬り拓く翠の地平』と銘打たれたそれは堅牢な戦士の防壁を正面から打ち砕いた。
「……!」
ペンテシレイアは瞠目する。ハリボテの玩具、己に掛かれば一撃で破壊できるガラクタ。しかしそれは歴とした宝具としての存在の名残を感じさせたのだ。今のはなんだ、宝具を持っているのかとペンテシレイアは驚愕するも、あんなガラクタを幾ら出されても己には脅威足り得ぬと見切る。それさえ分かれば充分なのだ。未知の力を持つ敵など珍しくもない。神々の加護を受けた英雄には特にそれが顕著だ。
その瞬間である。気配もなく、音もなく、白髪の男が現れた森から飛び出す者がいた。誰にもその姿を捉えられない。
―― 一歩音越え ――
男が『虚・千山斬り拓く翠の地平』によって切り開かれた陣に突入する。ペンテシレイアは軍神の威を発しながら叫んだ。
「抜剣せよ! 包み込み、揉み潰せ!」
戦士らが襲い掛かる。ペンテシレイアの中で眼帯の男は殺されるだけの弱者ではなく、蛮勇を振るうに相応しい勇者となっていた。屠るのに躊躇など元よりないが、ペンテシレイアはあの男を殺し尽くすべく睨み据えた。
男はただ突貫するのみ。頭部を双剣銃で隠し、後は背中も胴も、腕も庇う素振りすらない。戦士らの無数の剣
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