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戦国異伝供書
第三十六話 越後の次男その六

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「そしてです」
「どうかこの家をお救い下さい」
「まだ越後は完全にまとまっておりませぬ」
「一向一揆のこともありますし」
「どうか」
「それはわかっています、ですがわたくしは御仏を心からお慕いしています」
 その信仰のことをだ、虎千代は話した。
「ですから願っていました」
「このままですか」
「仏門の修行に励まれることを」
「そのことをですか」
「はい、毘沙門天にお仕えして」
 そしてというのだ。
「そのうえで、です」
「信仰に生きられたいのですか」
「このまま」
「寺を出られずに」
「いえ、確かにです」
 虎千代は家臣達に落ち着いた声のまま答えた。
「兄上はお身体が弱く戦は辛いです」
「だからですか」
「虎千代様がですか」
「その武を使われますか」
「はい、そして」 
 そのうえでというのだ。
「長尾家を、兄上をお助けします」
「それは何よりですが」
「それでもですか」
「寺は」
「出ます、しかし信仰はです」
 それはというのだ。
「是非です」
「続けていきたい」
「そうなのですか」
「虎千代様は」
「はい、毘沙門天への信仰はです」
 これはというのだ。
「生涯守っていきたいのですが」
「そうなのですか」
「それが虎千代様の願いですか」
「還俗されてもですか」
「毘沙門天は信じていかれますか」
「それが出来れば」
 それでというのだ。
「わたくしは何も文句はありません」
「ですが毘沙門天は」
 直江大和が虎千代に言った。
「生涯不犯の信仰です」
「はい、そうです」
「では虎千代様は」
「生涯妻を持ちません」
「そしてお子もですか」
「持ちません」
 絶対にというのだった。
「そのことを誓っていますし」
「これからもですか」
「破ることはありません、そしてです」
「このことをですね」
「認めてくれるなら」
 それならばというのだ。
「私は還俗致します」
「左様ですか」
「ですがそれではです」
 本庄重長が言ってきた。
「虎千代様の血は」
「それもです」
「宜しいのですか」
「はい」
 まさにという返事だった。
「そのことは承知のうえですから」
「では」
「わたくしの血はいいです」
 そのことはというのだった。
「それよりもです」
「信仰ですか」
「それを第一にしたいのです」
「そこまで言われるなら」 
 本庄も言葉はなかった、そしてだった。
 他の者達も異論はなかった、虎千代の決意があまりにも強いのを見てそれを認めるしかなかったのだ。
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