第三十六話 越後の次男その三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「越後は必ず治まります」
「思えばです」
今度は柿崎景家が言ってきた、武骨な顔立ちの大男だ。
「この越後も戦国の世だけにです」
「乱れているというのですね」
「はい、完全に一つになってはおりませぬ」
このことは柿崎も強く感じている、それで今言うのだ。
「一つになる為にはです」
「殿の武に加えて」
直江は為景のそれも話に出した。
「虎千代様の武もあれば」
「万全ですか」
「そう思うが故に申し上げるのです」
是非もなしという口調での言葉だった。
「今こうして」
「ですが父上が決められたのなら」
虎千代は瞑目する様に目を閉じて直江に答えた。
「わたくしはです」
「よいのですか」
「はい、仏門に入り」
そのうえでというのだ。
「静かに生きましょう」
「左様ですか」
「全ては毘沙門天の思われることです」
虎千代は子供ということを感じさせないまでに達観した声で述べた。
「ですから」
「仏門に入られて」
「そしてですか」
「以後生きられますか」
「そうします」
こう言ってだった、虎千代は実際に仏門に入りそのうえでそこで学問と修行に励んだ。僧としての虎千代はもの静かで学問も修行も好むよい僧であった。
日々毘沙門天に手を合わせ経を読む彼に寺の僧侶達は見事だと思った、だがそれ以上のことも思うのだった。
「あの方は寺に収まる方ではないのではないか」
「世に出られるべきではないか」
「あの方は仏門よりも兵法が相応しくはないか」
「毘沙門天を感じるのう」
「あの方からな」
虎千代自身にその御仏のことを感じていたのだ。
「毘沙門天の化身でなないのか」
「この世のあらゆる魔を降すという」
「なら今は戦国の世である」
「この世に魔が満ちていると言っていい」
戦によってそうなっているとだ、僧侶達も言うのだ。
「その魔を降されるのならな」
「あの方はこの寺を出られた方がいい」
「そしてその降魔の剣を振るわれるべきだ」
「この戦国の世を正す為に」
「あの方はそうあるべきではないのか」
僧侶達もそう思いはじめていた、そしてだった。
為景は次第に体調を崩し病に伏せる様になっていった、それで嫡男である虎千代の兄晴景が次第に表に出て来たが。
その晴景についてだ、長尾家の家臣達の多くがこう思った。
「弥六郎様はお身体が弱過ぎる」
「すぐに倒れられる」
「あの方では無理があるな」
「どうにもな」
長尾家を一人で支えるにはというのだ。
「到底戦の場には出られぬ」
「常に一向一揆や越後の北のことがあるというのに」
「信濃や上野の方も気になる」
「それで戦に出られぬでは無理じゃ」
「長尾家は守れぬぞ」
「あの方だけでは」
「そしてそうなれば」
どうなるかとだ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ