暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン7 傾国導く闇黒の影
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「ハァ、ハァ、ハァ……クソッ」

 夜の月に照らされて、肩で息をしながらボロボロの体で前方を睨みつける赤髪の女―――――糸巻。その口の端の煙草は彼女の呼吸が乱れている証拠に、不規則に先端の火が強まっては弱くなりを繰り返していた。特にひどく痛むらしい右肩を起動中のデュエルディスクをつけた左手で庇いながらも決して膝をつこうとはしないその表情は、まさに手負いの獣といった様子だった。

「おやおやおや、あなたこんなに弱かったでしたっけ?家紋町の守護神、デュエルポリスの古株……元プロデュエリスト、『赤髪の夜叉』さん?」
「……はっ、最初のひとつは初耳だな。それに精々抜かしてな。公務執行妨害、暴行、凶器準備集合罪、まだまだ罪状盛りだくさんのお得セットだ。泣いて謝ったってしょっ引いてやるからよお!」

 言い返す口調だけは威勢がいいが、もはや逆転の目が薄いことは彼女自身がよく自覚していた。まだ可能性はゼロでこそないが、このままではその残り火が費えるのも時間の問題だろう。
 なぜ、なぜ、こうなってしまったのか。それを語るには、ほんの少し時間を巻き戻らねばならない。





 ソーラー・ジェネクスによるバーン効果を逆手に取る形で、傷だらけとなりながらも鳥居が2勝目を挙げたちょうどその時―――――外。蜘蛛とのデュエルを終えた糸巻は試合中のドームを中心に円を描くように動き、直線上で1キロほど離れた自然公園でいつも通りに煙草をふかしていた。常人ならばとうの昔に胸焼けして煙を見るのも嫌になるようなハイペースだが、1カートンをわずか3日で吸い尽くすほどに重度のヘビースモーカーである彼女の肺は、この程度のことで音を上げる様子はない。

(さて、そろそろか?)

 心の中で呟き、ここまで乗ってきたバイクの元に向かう。蜘蛛とのデュエル後から会場と一定の距離を保ったまま適当に走っては一服し、追っ手の気配がなければもう少し走りまた一服する。その繰り返しだ。今回の裏デュエルコロシアムは、参加メンバーのネームバリューからいってもかなりの金が動く。当然、追っ手があの蜘蛛1人で済むはずがない。まして彼女は、その蜘蛛を既に返り討ちにしているのだ。

「こんばんは。随分好き放題やってくれましたねー、おかげでこっちはえらい騒ぎですよ」
「おう、遅かったじゃないか。ようやく2人目の……」

 はたして、彼女の予感は的中した。背後から掛けられた、軽い調子の声に応え振り返る……その寸前、膨れ上がった背後の殺気に彼女の体はほぼ無意識のうちに動いていた。軽口を途中で切り、煙草の始末をする暇もなく地面に転がって前転、声の主から距離をとる。
 その直後、先ほどまで彼女が立っていた位置に巨大な、銀色の槍のようなものが突き刺さった。いともたやすく地面を貫いたそれが直撃していたら
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