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戦国異伝供書
第三十五話 天下一の武士その十三

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「あの国は必ず全て手に入れる」
「諏訪を手に入れられましたし」
「さらにじゃ」
「まさにですな」
「あの国を手に入れる」 
 こう言うのだった。
「それからじゃ、美濃に出よう」
「まさにその時に」
「織田家に美濃を押さえられる前にな」
「それがよいですな」
「とかくあの者は気をつけたい」
 織田信長、彼はというのだ。
「大うつけなぞとんでもない」
「恐ろしい御仁ですな」
「間もなく天下に名を轟かせるわ」
 それこそというのだ。
「今川殿はどう思われておるかわからぬが」
「その今川殿ですが」
「どうも織田家を侮っておられるな」
「はい、それもかなり」
「そこが落とし穴になるやもな」
 義元、彼にとってというのだ。
「下手をすればな」
「そこが厄介ですな。ただ」
「ただ、か」
「今川殿には師でもある太原雪斎殿がおられ。そして」
「まだ優れた家臣がおるか」
「松平竹千代殿ですが」
「確か三河の者であったな」
 晴信もこのことは知っていた。
「最初は織田家の人質でな」
「それから今川家の人質になり」
「そしてじゃな」
「そして今川家の家臣になられています」
「そうであったな」
「一見目立たぬ御仁ですが」 
 それがというのだ。
「実は今川家の重臣にもです」
「取り立てられておるな」
「今川殿のその才を愛されていて」
 そうしてというのだ。
「ご自身の諱からです」
「元をであったな」
「与えられておりまする」
 そして元康、松平元康と名乗らせているのだ。
「そうされておりまする」
「左様じゃな」
「雪斎殿がよく教えられ今川家の跡継ぎ殿とも親しい」
「将来今川家の柱になるな」
「執権と言っていいまでにです」
 まさにというのだ。
「なられるかと」
「ふむ。それだけの者となるとな」
「今川家もですな」
「侮れぬが」
「それでも織田家は、ですな」
「その今川家を防ぐか」
「若しくは、ですな」
「倒してじゃ」
 そうしてというのだ。
「雄飛するやもな、とにかくじゃ」
「織田家は用心すべきですな」
「織田吉法師は何時かわしの片腕としたいしのう」
 このことをだ、晴信はここでも言った。
「それだけの者であるしな」
「だからですな」
「うむ、あの者はこれからも見ていよう」
 こう言ってだった、晴信は他の国々の者達も見つつそうしてだった。今は信濃に一歩一歩将棋の駒を動かす様に進んでいくのだった。


第三十五話   完


                  2019・1・24
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