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人理を守れ、エミヤさん!
地獄の門へ (下)
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・・・》はいいが……昂りを抑えるには物足りなかった。見れば中々の男ぶり、逃すには惜しい。  どのみち此処で殺すのだ。  せめて剣を執り俺と戦え」

 歯軋りしながら干将莫耶を投影する。マズイ、マズイ、マズイ――ケルト戦士が多数現れた。囲まれる、囲まれて、戦わされ、殺される。最悪の展開だ。
 フェルグスはしかし、言った。

「お前達は手を出すな。この益荒男達は、俺の獲物だ」

 虹霓剣を構えたフェルグスが、天上が落ちてきたような威圧を放ちながらケルトの戦士らを退かせる。戦士としての矜持か? 自信か?
 分かっている、誰よりも分かっている、この英雄は――ほんの僅かな時間で、俺と小太郎を殺せると見切っている。

 故に、情けだ。

 雑兵に殺されるのではなく、自分という英雄が殺してやるのが、戦士としてせめてもの情けだとこの英雄は――原始の豪傑は信じているのだ。
 理解はしない。だが知っている。雑魚に首を獲られるよりも、名のある将に首を刎ねられるのを望むのが古代の将らの思想だ。彼は悪ではない、ただ決定的に俺との価値観が違うだけの事。
 小太郎が吐き出すように言った。

「――血路を拓きます。主殿、どうか撤退を」
「撤退はする、だがお前も一緒だ」
「馬鹿ですか貴方は!?」

 小太郎は嘆き、しかし笑った。
 こんな使い捨てられても文句の言えない乱波と死地を共にし、あまつさえ見捨てる事なく危機を脱しようと言う主。得難い主だ、嬉しかった。だが、だからこそだ。小太郎は何に換えても絶対にこの主を逃がす事を誓う。何があっても彼に仕えると――この心命の全てを捧げて、彼に尽くそうと。

 フェルグスが笑った。久し振りに笑い方を思い出せた、というように。

「――いい主従だ。益々、殺したくはないものだ……だが。今の俺は、喩え悪鬼と謗られようとも、お前達を殺す。せめて名だけでも聞かせてはくれんか?」
「……衛宮士郎だ。覚えておけ。俺は逃げる。だがいつか必ず、お前を打ち倒してやる」
「は――はははは、はははははは!! そうか、そうか! 俺を倒すか! 面白い、だがそれには問題がある。衛宮士郎、お前は此処で死ぬ。次の機会などないぞ。残念ながら、な……」
「いいや、主殿は死なない。そしてお前を必ず倒すだろう。何故ならこの僕が、風魔忍群五代目頭領、風魔の小太郎が主殿を逃がすのだから」

 は……と。フェルグスは、最後に快活な笑いを一つ溢す。
 それで終わりだった。交わす言葉はそれで最後だった。神話最強に限りなく近い豪傑が、笑みを消して敬意を示し、虹霓剣に魔力を送る。
 讃えるべき敵手に最大の敬服を。その高潔な魂に祝福を。以て英雄は認めたのだ。全力で彼らを倒すに値すると。ならば、どうして出し惜しむものがある。フェルグスは、本気だった。
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