地獄の門へ (下)
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ださい!」
咄嗟に飛び退いた俺の前に、苦無型の短刀を構えた小太郎が出る。
崩れ落ちた家屋の影からゆっくりと姿を表したのは、筋骨隆々の男だった。上半身は裸、胸に獣に引き裂かれたような傷が三本ある。身に纏う覇気、充謐した魔力、間違いなくサーヴァントだ。
それも螺旋に捻れた大剣を肩に担いでいる。漲る戦意が陽炎のように揺らめいていた。
俺はその男を知っていた。その伝説の魔剣をよく知っていた。驚愕に目を見開く。
「フェルグス・マック・ロイ……!」
細い目を微かに開き、豪傑は意外そうに言う。
「む、一目見ただけで俺の真名を見抜くとは……さては俺を知っているのか?」
「……は。よくよく知ってるさ」
吐き捨て、思考を回す。意識に火花が散るほど現状を打破せんと、思考の歯車を高速で回した。
偽・螺旋剣――そのオリジナルを持つ英雄。アルスターサイクルに於いてクー・フーリンの養父にして友であり、剣の師であった事もある男だ。精力絶倫にして剛力無双、超自然的な人間として語られ、後世の有力者は彼の子孫を自称し権威を高めたとされる。
謂わばクー・フーリンが超自然的な魔人であったなら、彼は超自然的な超人である。彼の螺旋剣を幾度も投影している俺はこの英雄の力をよくよく知っていた。故に――
「逃げるぞ、小太郎。俺達だけでは絶対に奴には勝てん……!」
――フェルグス・マック・ロイに対して勝ち目はないと、即座に判断した。
小太郎は反応しない。真っ直ぐにフェルグスだけを睨み付けている。冷や汗がその顔には浮かんでいた。風魔小太郎がフェルグスから目が離せないのは、目の前の超人が突き刺すような戦意を叩きつけているからである。
目を離した瞬間に首が飛ぶ。胴に風穴が空く。確実に死ぬ。その確信が小太郎を縛っていた。それが分かるからこそ歯噛みする。
風魔小太郎は暗殺者だ。忍の者だ。白兵戦は、専門ではない。しかもこんなに見晴らしのいい所で戦うなど自殺行為。小太郎の宝具も、この英雄相手には相性が悪かった。
フェルグスは面白くなさそうに鼻を鳴らした。剛毅にして快活、豪快な性格の英雄には似つかわしくない、「戦い」にしか注力していない獣の眼光だ。
「いきなり逃げ腰か……つまらん、それはつまらんぞ。戦う力のない女子供を手にかける反吐の出るような仕事ばかりで辟易しておったところに見掛け、骨のありそうな男と漸く相見えられたと喜んでいたというのに」
「……英雄フェルグスともあろう者が、罪もない人々の鏖殺に荷担しているとはな。失望したぞ」
「俺自身はそんなつまらん真似などしておらんが……そうだな。看過している時点で俺も同じ穴の狢という奴だろう。否定はせん。で、どうする。俺もつい先刻|サーヴァントを一騎屠った《・・・・・・・・・
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