地獄の門へ (上)
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その中にあったものを見て、俺は右目を見開いた。――それは『眼帯』だった。
黒く鞣した革の帯である。いつの間に作っていたのだろうか。左目を覆える形に仕上がっていたそれを、俺の方に差し出しながら、小太郎は蚊の鳴くような声で言う。
「特になんの呪的な意味も、魔術効果もありませんが、それでもその、カッコイイと思います!」
「……は?」
呆気に取られた。カルデアからアイリさん辺りが来れば、左目も修復出来る。というかアルトリアが傍に来ればそれだけで『全て遠き理想郷』が左目を治してしまえるのだ。だから眼帯なんて包帯でも構わないと思っていたのだが。
「主殿はその、なんというか風格がありますから……似合うと思うんです、これ」
「……」
「着けてみてください!」
「あ、ああ……」
とりあえず言われるがまま、包帯を外して受け取った眼帯を左目に当てる。おお! と小太郎がロマンを目撃した、年相応の少年のように目を輝かせた。なんとなく悪くない。そう思う。
眼帯が、ではなく。――小太郎が俺の愁いを察して、気を紛らわせようと俺の左目を口実に、プレゼントをくれた事が。素直に嬉しいと感じる。
凄いです、まるで大名に仕える忍の頭領! 闇世界の実力者の風格があります! ……そんな事を言われても嬉しくないのだが。
それからも、小太郎は俺を元気付けようと頻りに話しかけてきた。そんな心配されるほど、軟弱じゃないんだけどな……。まあ、彼の優しさだろう。有り難く受け取っておく。
やがて砂漠を抜け、森に入ると、休憩のために目に留まった岩に座って一息吐く。拝借してきたシャツを脱いで上半身裸になり、汗を拭っていると俺の正面に小太郎が来た。
「……」
「……なんだ?」
「……主殿。少し、凄んでみてください」
「はあ?」
間抜けな顔をしてしまった俺は悪くない筈だった。しかし少年みたいな表情で、小太郎は目を輝かせて俺を見ていた。
凄んでみてくれって……なんだ? どうしろというんだ……? ……いやほんと、どうしろと?
とりあえず気まずいので、咳払いをして表情を変える。そして片膝をついて俺の前にいる小太郎を見下すように顔をやや上に向け、目に力を込めた。
「おお! 素晴らしき御貫禄!」
小太郎が拍手してくる。
「……」
コイツ……俺の事を、心配……してくれてるんだよ、な……?
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