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戦国異伝供書
第三十五話 天下一の武士その十二

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「だからじゃ」
「お二方は、ですか」
「やがて止まる、特に今川殿はな」
「危ういですか」
「それでお主に頼むが」
「織田殿のことをですか」
「そして長尾虎千代のこともな」
 彼のこともというのだ。
「是非な」
「詳しくですな」
「そうじゃ、占いだけでなくな」
「忍の者達も使い」
「源次郎と十勇士達は信濃に向かわせておる」
 今や武田家きっての忍である彼等はというのだ。
「だからあの者達以外の忍の者達を向かわせてな」
「そうしてですな」
「よく調べてもらいたい」
「わかり申した、実はです」
 山本はその隻眼を光らせて晴信に話した。
「織田殿はよく大うつけと言われていますが」
「それはじゃな」
「あの御仁の型破りがわからぬだけ」
「その通りじゃな」
「その政も戦もです」
「共にかなりじゃな」
「はい、家臣も優れた御仁が多く」
 それでというのだ。
「瞬く間に尾張を統一されましたが」
「あれはまぐれではないな」
「どの戦も鮮やかに勝たれています」
 このこともだ、山本は確かに見ているのだ。
「特に政は」
「それはじゃな」
「田畑をよく耕し堤を整え道も橋もよくしており」
「善政じゃな」
「どの者にも街で商いを許しております」
 座を設けさせずにというのだ。
「関所も廃止しております」
「あれは凄いのう」
「はい、その為尾張は人の行き来がかなり賑わっておりまする」
「豊かになっておるな」
「日に日に」
「ではじゃな」
「あの御仁は雄飛されます」
 間違いなくというのだ。
「そして尾張だけに止まらず」
「さらに大きくなるな」
「伊勢や美濃にも進出しかねません」
「美濃か」
 その国の名が出てだ、晴信の眉が動いた。そうして山本に言うのだった。
「わしの考えは知っておろう」
「はい、その美濃にもですな」
「やがては出てな」
「そこからさらにですな」
「上洛も考えておる」
「だからですな」
「あの国は押さえたいが」
「織田殿が大きくなれば」 
 その時はというのだ。
「先に美濃を押さえられることもです」
「考えられるな」
「その時は厄介かと」
「そうじゃな、しかし我等はな」
「それでもですな」
「まずは信濃じゃ」
 今進出しているこの国だというのだ。
「あの国を完全に押さえるぞ」
「それからですな」
「信濃は七十万いや八十万石はある」
「あの国を手に入れると実に大きいです」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
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