第五章
[8]前話
「太ってみてるんだよ」
「そうですか」
「それで、ですか」
「太っていかれますか」
「打つ為に」
「ああ、どんどん打ちたいな」
落合は同僚達に笑って答えた、そして実際にだった。
ペナントで落合は絶好調だった、それは三冠王を獲得し阪急を優勝させたブーマーさえも凌いでいて。
絶好調だった、ヒットだけでなくホームランも打点もだった。
むしろ先に三冠王を獲得した時より打っていた、それで記者達も落合に言うのだった。
「今シーズン絶好調ですね」
「打ちまくってますね」
「三冠王いけません?」
「ひょっとして」
「そうかもな、本当によく打ててるよ」
落合も記者達に笑って応える。
「今年は」
「結婚されてからですよね」
「普通結婚されたシーズンは成績落ちるんですが」
「落合さんは逆ですね」
「逆によくなってますね」
「女房がいいからだよ」
落合は笑顔のままこうも言った。
「だからだよ」
「それで、ですか」
「奥さんがいいからですね」
「成績がよくなった」
「そうなんですね」
「ああ、自分では悪妻って言ってるけれどな」
それも世紀のだ。
「その女房のお陰でな」
「今の落合さんがありますよね」
「そうですよね」
「太ってな、この太ったのも女房のアドバイスだしな」
落合は記者達にこの話もした。
「女房あってだよ、だからこれからもな」
「奥さんと一緒にですね」
「野球をしていかれますね」
「そうしていくな、これからどうなるかわからないけれどな」
先のことはというのだ。
「それでもな」
「これからもですね」
「やっていかれますね」
「奥さんと」
「ああ、俺にとってはかけがえのない女房だよ」
こうも言う落合だった、そしてだった。
落合は二年連続で三冠王を獲得し以後も平成のスラッガーとして名を馳せた。中日ドラゴンズの監督になってもその采配が注目された。
彼がここまでの野球人になったのは全て結婚してからだと言われている、太ったことによりスラッガーとして覚醒したことを見るとその通りであろう。彼は正規の悪妻ならぬ世紀の良妻に巡り合えた、そう言うべきだろうか。
結婚して 完
2019・1・17
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