第三章
[8]前話
「ではこうしよう、わしとわしの子達がお主の子孫を守る」
「私のですか」
「子はおるな」
「はい、女房を迎えて何人か」
「その子達、そして孫に曾孫にな」
「子孫をですか」
「代々守ろう、末世までな」
このことを約束するのだった。
「そうするぞ」
「そうして頂けますか」
「左様じゃ、ではな」
「はい、それでは」
「うむ、代々健やかかつ豊かに暮らしていけるぞ。それとじゃ」
ここで天王はふと思い出したことがあった、それは何かというと。
「あの長者じゃが」
「村の」
「うむ、わしを泊めなかったな」
この者もことも言うのだった。
「あの者のことだが」
「とかく天王様の仕返しを恐れて日々念仏を唱え僧の方も呼んで念仏を唱えてもらっています」
「わしから逃れる為にか」
「左様です」
「ははは、その様な小さなことは気にせぬ」
天王は蘇民から聞いた長者のことについて笑い飛ばした。
「だから何もせぬ」
「左様ですか」
「しかしわしから逃れる為とはいえ日々念仏を唱え僧にも唱えさせるのは殊勝なこと。長者にはわしの仕返しはないと告げて」
そしてと言うのだった。
「念仏は続けよともな」
「長者殿にですね」
「伝えよ、よいな」
「わかり申した」
「わしはその方がずっといいわ」
仕返しをするよりもというのだ。
「だからな」
「それ故に」
「うむ、わしのことは気にせずにな」
「以後もですな」
「念仏を唱え唱えさせてもらいたい、してお主にはな」
蘇民にはというと。
「言った通りじゃ」
「子孫末代までですか」
「わしと子供達が守護しようぞ」
その鬼の様な顔を綻ばせての言葉だった、天王は自分が言った通りにだった。長者には何もせず蘇民の子孫を末代に至るまで守りそれは今も続いているという。祇園さんの話は他では長者は一族全員殺されたともあるがこの話では天王はいいとしている。どちらが真実かわからないがこちらの話の方が神の器と情と戒めの話としていいのかと思いここに書き残しておくことにした。一人でも多くの方が読んで頂ければ幸いである。
牛頭天王の結婚 完
2018・10・8
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