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夏の茄子
第一章
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      夏の茄子
 二宮尊徳はこの時家で昼飯を食おうとしていた、そこで彼は卓の上に茄子を見て妻に対して言った。
「今日は茄子か」
「はい、お好きですよね」
「大好きだ」 
 尊徳は妻に笑顔で答えた。
「昔からな。特にな」
「秋の茄子ですね」
「秋茄子は嫁に食わすなというが」
「その言葉通りにですね」
「実に美味い」
 その茄子について言うのだった。
「だから今から楽しみだ」
「今は夏ですが」
「夏の茄子も好きだがな」
 それでもというのだ。
「やはり茄子はな」
「秋ですね」
「あの季節の茄子が一番美味い」
「では」
「今から楽しみにしてな」
 その秋茄子をというのだ。
「夏の茄子を食おう」
「それでは」
 妻も笑顔で応えた、そうして食事をはじめ尊徳はその茄子を食べた。すると彼は急に顔を顰めさせた。
「これはいかん」
「相当に美味しいですが」
 妻も茄子を食っていた、それで夫の言葉に応えた。
「何故駄目なのでしょうか」
「美味いからいかんのだ」
 尊徳は妻にまた言った、皺の多い顔には確かな知性が感じられる。
「だからな」
「美味しいからとは」
「この茄子は秋茄子の味だ」
「だから美味しいのですね」
「今は夏だ」
 尊徳は今度は季節の話をした。
「夏で秋茄子の味がする、だからだ」
「いけないのですか」
「これは非常によくない」
 尊徳はこうも言った。
「冷害が起こるぞ」
「冷害ですか」
「そうだ、それが起こる」
「夏に秋茄子の味がすると」
「それだけ茄子が熟れていることだが」
 早くにというのだ。
「秋から相当に冷える、それではだ」
「冷害ですか」
「それが起こる、今のうちに備えをしておこう」
 冷害のそれをとだ、こう言ってだった。
 尊徳はすぐに周りに冷害への備えをする様に言った、貯えをさせてだった。
 冷害、そこから起こる飢饉に備えさせた。だがある庄屋は尊徳にまさかという顔になってこう尋ねた。
「あの、本当にですか」
「これは飢饉が起こる」
 尊徳は庄屋に答えた。
「間違いなく」
「そうなのですか」
「だから私の言葉を信じてだ」
「今のうちにですか」
「飢饉への備えをして欲しい」
「先生がそう言われるなら」 
 村長も尊徳のことは知っている、勤勉で誠実で間違いは言わない。学識も非常にあり常に百姓の為に頑張っている。
 それでだ、尊徳の今の言葉にこう返した。
「わしもです」
「そうしてくれるな」
「はい、まさかと思っていますが」
 この気持ちがあるのは事実だが、というのだ。
「そうさせてもらいます」
「それではな」
「今から」
 この庄屋だけでなく他の者達もだった。
 飢饉に備
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