第一章
[2]次話
猿顔
日光日吉はその名前だけでなく顔立ちも猿そっくりだ、それでそれこそ物心がついた頃から仇名は猿だった。
このことについてだ、彼はよく周りに言った。
「俺の名前といいな」
「ああ、顔もだからな」
「あと仕草だってそうだぞ」
「御前本当に猿だぞ」
「猿そっくりだぞ」
「そうだよな、自分でもわかってるよ」
猿にそっくりということはというのだ。
「名前だってそうだしな」
「日光って猿出るしな」
「猿が多いことで有名だしな」
「木彫りでもあるしな」
東照宮の見猿聞か猿言わ猿だ、この猿達も有名だ。
「そして日吉ってな」
「日吉丸だろ」
「豊臣秀吉さんな」
「あの人の子供の時の名前だろ」
「親がな、お日様が二つあると吉も最高ってことでな」
日吉は自分の名前の由来も話した。
「それでな」
「日吉か」
「日光に合わせて」
「その名前になったんだな」
「そうだったのか」
「ああ、けれどその時はな」
名前を付けられた時はというのだ。
「親も俺がこの顔になるとまでは思わなかったんだよ」
「猿顔にか」
「そのままにか」
「そうなんだよ、この顔母方の祖父ちゃんの顔なんだよ」
猿そのままの顔はというのだ。
「けれど俺祖父ちゃんよりもな」
「猿そっくりか」
「そうなってるんだな」
「そうだよ、何でかそうなってな」
それでというのだ。
「猿だ猿だってな」
「ずっと言われてるんだな」
「子供の頃から」
「それで今もか」
「高校に入ったけれどな」
高校生になったがというのだ、今は黒い詰襟のもうすっかり減ってしまったタイプの制服を着ているがだ。
「やっぱりな」
「ああ、御前の仇名猿だしな」
「そのままな」
「仕草だって近いしな」
「猿だからな」
「それでバナナも食うとな」
実は好物である。
「余計に言われるしな」
「猿っていったらバナナだからな」
「御前本当に猿に縁あるな」
「というか猿そのものか?」
「そうなってるな」
「好きでなってないよ、けれどな」
それでもとだ、日吉はどうかという顔で友人達に話した。クラスで自分の席に座って自分が持って来たピーナッツをポリポリと食べながら話すがその食べる仕草までどうにも猿を思わせるものである。
「もう子供の頃から言われてな」
「慣れたか」
「そうなったんだな」
「猿って言われることに」
「ああ、だから何を言われてもな」
猿と、というのだ。
「いいさ」
「そうなんだな」
「御前はもう猿のままでいいんだな」
「猿って言われてもいいんだな」
「好きなだけ言ってくれよ」
正直好きではない、だがそれでも受け入れているという顔での言葉だった。
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