絶望を焚べよ、光明は絶えよ
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戦況を仕切り直す訳にもいかず、あくまで踏み留まる彼は魔神霊という濁流を塞き止める限界を迎えた。圧倒的な膂力に圧され、魔槍が跳ね退けられ胴の隙を晒してしまう。咄嗟に丸楯を取り出して巨槍の軌跡を逸らすも、脇腹に最果ての槍が突き立った。がッ――苦鳴は短く。突き上げられたクー・フーリンが振り回され、その遠心力で彼方へと放り出された。
「……! セイバー!」
「まだです、まだ……! あれを消し飛ばすのに今少しの溜めが必要ですッ」
クー・フーリンの安否は気になる。だが突進して来る魔神霊の迫力に焦りを抑えられない。
士郎はしかし、その焦りを殺す。そして双剣を投影した。シロウ……!? 驚愕するオルタに、鉄の瞳が重なる。士郎は、言った。
「二秒保たせる。……信じてるぞ、セイバー」
「――はい。必ず!」
全身を強化する。隻眼となっている士郎は右目を見開いた。突撃してくる魔神霊は、進撃してくる人間に。魔神霊は嗤う、マスターである士郎を殺しさえすれば、オルタに注意を割く必要はないのだ。
無謀を犯す塵芥を蹂躙せんと最果ての槍が煌めく。士郎は聳え立つ山脈を前にしたような圧迫感に死を視るも、怯まなかった。竦まなかった。死の覚悟なんて捨てている、あるのは無限に湧いてくる生への渇望。死にに逝くのではない、生きに往くのだ。死中に活あり、無敗の戦歴に華を添えるだけだと男は笑う。
「オォォオオオ――!!」
初撃。侮りか、見切りか。胴を貫く軌道の直突き。双剣で流す。受ければ腕もろともに双剣は砕ける。魔神霊の槍、アルケイデスの武、嫌になるほど目に焼き付いていた。彼の心眼は過つ事なく初撃を捌く。
しかし、それでも強化したはずの腕に皹が入った。戦車の突撃を生身の腕で止めようとするようなものだ、然るべき損害である。
双剣が刃毀れした。補強、新たに投影し直す暇はない。空間を波打たせるように巨槍が振り上げられ――振り下ろすと見せ掛けての虚撃。巨槍の石突きが穂先を振り上げた勢いそのままに、下から食いつくように掬い上げられてくる。
左下からの強襲。死角を突く軌道。士郎は防げない。咄嗟に胴を守る為に下げた莫耶が、それを握る腕ごと砕かれた。血反吐を吐く。衝撃に内臓が破裂したのか、肋骨が纏めて三本折れた。
巨槍が旋回する。躰を左半回転させて胴を薙ぎ払う軌道、肋骨が折れている、左半身に受ける訳にはいかない。干将を間に割り込ませるしかないが――飛来した朱の閃光が刹那の時を稼ぐ。
死に体でありながら魔槍を投じたクー・フーリンだ。魔槍が魔神霊の胸を背後から貫いたのである。動きが一瞬止まる、防禦ではなく回避が間に合った。一秒と半、あと半秒――魔神霊は胸を穿たれていても尚駆動する。沸騰したように肉が脈打ち、胸に空いた風穴を塞いだのだ。治癒ではない、再生でも
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