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人理を守れ、エミヤさん!
風前の灯、少女達の戦い (前)
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物を毛嫌いしていた。幼くとも関係がないのだ。彼の脳裡にあるのは『清純』を謳いながらも、騎士と密通した唾棄すべき王妃の存在である。無垢であろうと、なんであろうと、女である以上は信用に値しないのだ、彼にとっては。例外は――生前仕え、王に徹していた騎士王のみである。

「剣を握った事もなく、戦場に出た事もない。そんな貴様達に力を期待する者はこの場にはいない。それを弁え、せめて場を混乱させる事だけはしてくれるな。私は元より、戦う力のない者を守る余分は我らに赦されていない。分かるか、このカルデアは本陣だ。そこに攻め込まれるような事があれば、即ち死力を振り絞って死ぬまで戦わねばならん。貴様らを守護するよりも、全霊を賭して守らねばならんものがある」
「分かっています」

 キッと目に力を込めて、美遊は応答した。アグラヴェインがぴくりと眉を動かしたのは些か意外であったからだろう。美遊は怯んでいても怯懦に縛られてはいなかったのだ。
 小娘でしかない彼女が睨み返してくるだけの気概があるのが、アグラヴェインには意外だったのである。

「み、美遊……」
「大丈夫」

 イリヤが腕の裾を掴んで、アグラヴェインの眼光に怯えながらも美遊を呼んだ。それに美遊は柔らかく微笑む。
 負けん気の強さは男の人にも負けていない。美遊の琥珀色の瞳に――イリヤは慣れ親しんだ兄の影を見て目を瞠いた。え、と戸惑うイリヤの手を握り、少女は鉄の男を睨む。

「邪魔はしません。もしそうなりそうだったら、見捨ててくれても構いません」
「……」
「でも何か私に出来る事はありませんか。私、ここての事は何も知らないですけど……出来る事があるなら、それから逃げたりなんかしません」
「美遊ちゃん……」
「ドクター。きっと士郎さんなら、こう言いますよね?」

 はにかんだ少女だが、その脚は今に震え出してしまいそうだった。イリヤはそれに気づく。怖いんだ……。イリヤは恐怖を感じているのが自分だけではないと今になって悟る。今までそうと気づけていなかったが、美遊だって硬質な表情の中に恐れの色がある。
 自分達の知る黒化英霊を、遥かに上回る敵。駆け引きの緊迫感、濃密な殺気。大人と子供の戦いの境界をはっきりと感じていた。美遊が幾ら才気煥発の少女とはいっても、脅威を感じて恐怖する感情はあるのだ。桜なんて、イリヤよりも年下なのだ。イリヤは自分が情けなく震えている様が、酷くみっともなく感じて唇を噛む。

 美遊の手を離し、自分に視線を向けたアグラヴェインに向けてイリヤは決然と言った。

「私も! 私も……逃げない! ルビーも、美遊もいるんだもん! 皆は私が守る!」
「……」

 それにアグラヴェインは露骨に嘆息して視線を切った。優しい言葉も、何も掛けない。尊い想いであろうが、なんだろうが…
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