第三十五話 天下一の武士その六
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「諏訪殿の暮らしは我等が銭を出し」
「それでじゃな」
「都におられれば」
「よいか」
「そう思いますが」
「そうじゃな、都に置いて目付も付けてな」
「諏訪殿に近付く者がいても」
そうして諏訪が無理に諏訪家の主に戻ろうとしてもというのだ、その者の力を借りるか誘いに乗ってだ。
「そうすればです」
「目付が退けるか」
「そうなりますので」
「それではじゃな」
「はい、ここはです」
まさにというのだ。
「それがいいかと」
「わかった、ではな」
晴信は幸村の言葉に頷いた、そしてだった。
彼は実際に諏訪が降ると彼の妻である信玄の妹と共に都に上がる様に告げた、これには諏訪も驚いた。
「わしに都でか」
「以降です」
家臣の一人がその諏訪に答えた。
「都においてです」
「暮らせというのか」
「諏訪家の主は降りてもらうにしても」
「腹を切らせるという話があるのは聞いておる」
諏訪にしてもというのだ。
「しかしそれでもな」
「殿としてはですな」
「その覚悟であったが」
「はい、しかしです」
「武田殿はか」
「真田殿の献策を受けてです」
そのうえでというのだ。
「殿が無理にと言われるなら」
「都に入れるというのか」
「おそらく目付が付けられるので」
それでとだ、家臣は諏訪に述べた。
「勝手なことは出来ず」
「諏訪にも戻れぬな」
「しかし殿は何もなく」
腹を切らせることはというのだ。
「ご嫡子様もです」
「命は取られぬか」
「そうなりました」
「既にか」
「そして殿は奥方様とです」
晴信の妹である彼女と、というのだ。
「これからは」
「そうなるか」
「どうでしょうか」
「仕方あるまい」
これが諏訪の返事であった。
「そこまでじゃ」
「手を回されたならば」
「もうわしはじゃ」
それこそというのだ。
「意地を張って腹を切るか」
「武田殿のお話通りに」
「都に入るか」
「どちらかですな」
「しかし暮らしは保証されて子も殺されぬ」
「ならばですな」
「断る理由もない」
特にというのだ。
「ではな」
「はい、これよりですな」
「都に入ろう」
諏訪も決断した。
「隠居してな」
「では諏訪家の主は」
「致し方あるまい」
苦い顔だがこう述べた。
「それではな」
「武田殿のご子息にですな」
「跡を譲る」
そうするというのだ。
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