第26話『涙を勇気に変えて〜ティッタの選んだ道』
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【ブリューヌ・ユナヴィールの村付近・銀の流星軍幕営地】
太陽が南中高度に差し掛かろうとするにも関わらず、昨日からまだ寒気が流れ込んでくる。年間を通して、周辺諸国より寒暖なき肥沃の大地で知られるブリューヌには珍しい気候だ。確かに冬に差し掛かろうとする時期ではあるが、ここまで寒気が流れ込んでくるなど、ブリューヌ国内であるアルサス生まれのティッタには珍しく感じたことに対し、初冬より寒気が厳しい貧村出身のフィグネリアには覚えがあった。
戦の匂いである。正確には、大戦の予兆だ。
それも、寒さに紛れて血の匂いを思わせる、そんな予兆を。
フィグネリアは、かの銀閃の姫君であるエレオノーラ=ヴィルターリアと、この混成軍の第一人者であるティグルヴルムド=ヴォルンが結成した『銀の流星軍』の戦力の中核を担う重要人物だ。隣にいるティッタもまた、魔王フェリックスの支配していたアルサスを奪還に一役担った勇者である。
そんな勇者兼侍女のティッタの姿を見かけて、フィグネリアことフィーネは声をかける。
「おはよう、ティッタ」
「はい、フィグネリアさんもう起きていたんですか?」
ここアルサスに銀の流星軍が陣営を築いてそれなりに日はたっているだろう、とはいえ、こういった日常もなくはない。久々の平穏といえば言い過ぎかもしれないが、今のブリューヌ情勢は王政危機の国難にさらされている。それでも、ティッタとのこうした優しいやり取りが、戦続きだったフィーネにはありがたかった。
「傭兵の習慣みたいなものだけど……それよりもティッタは水汲みにいくのか?」
ティッタの両手に抱えられている木桶に気づいてのことだった。対してティッタは明るく「はい」と答えた。
「そうか――では私も一緒に行こうか」
「ありがとうございます、フィグネリアさん」
川に水をくみ上げに向かうティッタを見かけて、フィグネリアは一緒に来てくれる。
現在は千の数字に近い兵がアルサスに駐留している。リムアリーシャにも言われていたことだが、なるべく一人で行動しないようにと釘を刺されたことがある。
一介の侍女にすぎない当時のティッタの立場では仕方のないことだったが、ティッタを見かけると、周りの兵達がちょっかいまじりに声をよくかけていたものだ。最も、それらは浮ついた気持ちから出ていたものだが、今は違う。
今やティッタも『銀の流星軍』の一翼を担う勇者のひとりだ。戦力という意味ではないが、かつてアルサス奪還作戦時にテナルディエへ単独論戦を挑み、その功績を評価されて上官部から勇者に任命されたのである。
簡単に『奪還』といえばそれまでだ。だが、『損害』という意味では過剰と言っても過言ではない。何しろ、『自軍の犠牲を正真正銘のゼロ』で敵陣地を取り返したのだ。
(あたしがティグル様に代わっ
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