第七十二話 呂蒙、学ぶのことその五
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「実はエスじゃないかと」
「それねえ。私も聞いてるわ」
「蓮華様もですか」
「袁術みたいにね」
ここでも名前が出る彼女であった。少なくとも有名人なのは間違いない。
「そうなんじゃないかってね」
「濡れ衣です。私はそんな他の人を」
「貴女と他の世界の誰かと中身はそれぞれ違うのよ」
孫権が今話すのはこのことだった。
「いちいち気にしていたら仕方ないわよ」
「そうですよね。それは」
「そうそう。それでまた話を変えるけれど」
「はい」
「貴女昨日もだったのね」
こうだ。話を変えたのである。
「昨日も遅くまで書を読んでたのね」
「はい、穏殿からお借りしまして」
彼女からだ。借りてだというのだ。
「呉子を読んでいました」
「あの書をね」
「何度読んでも深い書だと思います」
語るその声にいささか熱が入ってきていた。
「あの書を読んで。もっと軍師としての素養を磨きたいです」
「いい心掛けね。けれどね」
「けれど?」
「読むべき書は多いわよ」
「そうですね。本当に」
「これからも読みなさい」
孫権は微笑んでまた呂蒙に話した。
「私もだけれどね」
「孫権様もですか」
「そうよ。私もなのよ」
微笑んでだ。孫権は話すのである。
「まだまだ。学問が足りないのよ」
「そんな、孫権様はとても」
「ああ、真名で呼んで」
生真面目な呂蒙にこう断りも入れた。
「もう。そんな他人行儀じゃなくてね」
「いいのですか」
「いいから。雪蓮姉様やシャオだってそうしてるじゃない」
「そうですね。それは」
「だからよ。真面目もいいけれど」
呂蒙の長所である。その生真面目さがだ。彼女を成長させている要因でもある。だが孫権は彼女のその真面目さにあえて言うのである。
「砕けるところは砕けてね」
「そうしてですか」
「そうよ、じゃあ実際にね」
こう話してだった。それでだった。
自分からだ。彼女の真名を呼んでみせたのである。
「亞莎、いいわね」
「はい、蓮華様」
御互いに真名で呼び合う。そうしてあらためて話すのだった。
「例えば穏は凄い書が好きよね」
「あの方は本当に凄いですね」
「あの娘が立派な軍師なのはね」
「書を沢山読まれてるからですね」
「そうよ。だからよ」
それでだというのである。
「だから。あそこまでなれたのよ」
「では私も」
「御願いね。貴女はそれにね」
「それに?」
「武芸もできるから」
呂蒙はかつて親衛隊にいたのだ。甘寧の部下であったのだ。
「実戦経験はあるわね」
「少しですが」
「その経験も生きるから」
「親衛隊であった時のですか」
「実戦経験も大事よ。冥琳の場合はそちらが大きいのよ」
「あの方は常に雪蓮様と共に戦場におられたからですね
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