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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
第二話 最高の調味料
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いいわ。見ているかさっさと行っちゃ――」

 左手を頬に当てスカロンが右手を振りながら答えたが、言い切る前に士郎はさっさと客席に向かって駆け出していた。一瞬にして視界から消えた士郎の様子に、目を丸くしたスカロンだったが、振っていた右手を口元に持っていくと、小さく笑みを浮かべ、

「……本当に可愛いわね」

 くすくすと小さな笑い声を上げた。
 

 




 客席へと向かって駆け出した士郎が、厨房から客席へ繋がるドアを開けると、ドア横の壁に寄りかかっていた少女に呼び止められた。

「大変だったね」

 豊かな胸を見せつけるような大きく胸元が開いたワンピースを着た少女。スカロンの娘であるジェシカだ。

「ん? ジェシカか。さっきのはお前か。で、ルイズはどこの客を襲っているんだ?」
「ああ。それ嘘」
「は?」

 肩を竦め、悪戯っぽく片目を閉じながら士郎に笑いかけたジェシカは、ポカンと口を開けた士郎の姿を見ると、今度は声を上げて笑い始めた。

「アハハハ。いや家の親が迷惑掛けてたみたいだったからね。助けようと思って声かけたんだけど……もしかしてお邪魔だった」
「いやそれはない。まあ、正直助かった。丁度どうやって逃げようか考えてた所だった」
「そう」

 笑いすぎたのか、目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら頷いたジェシカは、隣に同じように壁に寄りかかった士郎を見上げた。視線の先の士郎は、先程の悪夢のような光景(スカロンが躙り寄ってくる姿)を忘れようと、眉間に皺を寄せて唸っている。うんうんと唸って難しい顔をしている士郎の全身を舐めるように見たジェシカは、未だ着たままのフリフリのエプロンを掴むと、軽く引っ張った。

「ねえシロウ。ちょっと聞きたいんだけど。あなたとルイズの関係って何? どう見てもあなた達兄弟に見えないし。それに……」
 
 そこまで言うとジェシカは、嫌々ルイズが給仕をしている姿を思い出し、顎に指先を当てながら首を傾げ。何気ない事を聞くように士郎に声を掛けた。

「あの子って貴族でしょ」
「……」
「沈黙は肯定ってことかな?」
「さてね」
「……ふ〜ん。まっ、ここにいる子は大なり小なり事情があるから無理矢理聞き出そうとは思わないけど」

 壁から背を離したジェシカは、壁に背を付けたままの士郎の前まで歩き。逃がさないとばかりに両手を壁に付き、士郎の身体を壁と自分の身体で挟み込んだ。ジェシカは胸を士郎に押し付けるように身体を寄せ。舐め上げるように顔を上げ。士郎の目を覗き込んできた。
 士郎の頬を、一雫の汗が流れ落ちる。
 爛々と輝くジェシカの瞳は、士郎に襲い掛かる寸前のスカロンの瞳によく似ていた。 

「でも、ちょっとぐらいあたしに教えてくれないかな? 大丈夫、誰にも
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