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戦国異伝供書
第三十三話 隻眼の男その十

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「あちらから」
「そうじゃ、金を多く掘ってじゃ」
「そのうえで」
「そこからの金もどんどん使う」
「そうしていき」
「甲斐を治める、そして少し力がついたらな」
 その時のこともだ、晴信は話した。
「信濃に兵を進めるぞ」
「あの国にですか」
「そうじゃ、あの国を手に入れる」
「信濃の全てを」
「甲斐だけでなく信濃も手に入れれば」
 それでとだ、晴信は確かな声で話した。
「甲斐の民達もじゃ」
「信濃の富も入り」
「信濃との商いも自由に出来て」
「よくなりますな」
「そうじゃ、勿論信濃も治める」
 この国もというのだ。
「よいな」
「それでは」
「まずは甲斐をしかと治め」
「足場を固めて」
「そのうえで、ですな」
「信濃に行くと、ただな」
 晴信はこうも言った。
「一つ問題がある」
「と、いいますと」
「その問題は何でしょうか」
「一体」
「諏訪家じゃ」
 この家のことをだ、晴信はここで話に出した。
「あの家じゃ」
「諏訪家とはです」
 小山田信茂が言ってきた、風采が上がらず何処か狡そうな目をしている。この者も武田家の重臣の一人である。
「大殿が縁組を勧められて」
「わしの妹婿じゃな」
「縁戚にありますが」
「その諏訪家と諏訪の地をじゃ」
「当家に入れたいのですな」
「信濃といったな」
「信濃の国全てをですな」
「わしは手に入れると言ったな」
「だからですな」
「諏訪家も諏訪の地もな」
「当家に組み込みますか」
「そして諏訪大社の主の座もな」
 こちらもというのだ。
「出来ればな」
「当家が担う」
「そうもお考えですか」
「そうじゃ、妹婿ならじゃ」
 それならとだ、晴信は家臣達にさらに話した。
「尚更じゃ」
「当家に入れる」
「そうお考えですか」
「何とかして」
「若し嫌だと言うなら仕方ない」 
 晴信はこうも言った。
「妹婿であるが」
「当家に入られぬなら」
「その時はですな」
「諏訪殿は」
「隠居してもらうがそれも嫌なら」
 晴信はその目を厳しくさせて家臣達に述べた。
「腹を切ってもらう」
「ですか」
「諏訪殿には」
「そうしてもらいますか」
「どうしてもと言うならな、そしてな」
 信玄は家臣達にさらに話した。
「諏訪からさらにじゃ」
「信濃を組み込んでいきますな」
「あの国全てを」
「そうしますな」
「その間信濃の諸家もじゃ」
 村上、小笠原、木曽、真田、そしてその諏訪といった諸家をというのだ。
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