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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 17
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、勘の冴えは悪くないほうね。罠の一つに気付いただけでも十分に賢いわ。短絡的な思考が弱味になってる所は、ちょっとだけ惜しいけど」
 「っだから上から物をっ…………って、……罠の、一つ?」
 「そうよ。貴方が気付いたのは幾重にも用意してあった罠の内の一つ。貴方の目線だと四つ目か五つ目になるのかしら」
 「よっ!?」
 肘を立てた右手のひらに自身の頬を乗せ、折り曲げていた左手の指先を一つ、二つと数を数えながら一本ずつ伸ばしていくプリシラ。
 「嘘を吐くな! お前らはオレより少し前に着いただけだろ!? 三つも四つも罠を仕掛ける余裕なんか無かった筈だ!」
 「幾らでもあったわよ? 貴方が鈍くて気付かなかっただけ」
 「っ、この! 莫迦にするのも大概にっ」

 「西方領の外れに在る孤児院から来た浮浪児もどきのクァイエット君。私が貴方の存在を掴んだのは大体十三年前。貴方を手元に招こうと決めたのは約一年前。貴方が王都を訪れるように仕向けたのは半年前よ。こんなにも余裕があって後手に回るほうがおかしいと思わない?」

 孤児院を使おうと決めたのは今日だけどね。と、にっこり微笑むプリシラを見て、青年の表情が愕然と凍り付く。

 「な……なんで、オレの、名前……!?」
 「貴方の事は全部知ってるわ。孤児院で育てられた元戦災孤児のセイレスお母様と、一般民のガナルフィードお父様との間に生まれた一人息子。夫婦仲の悪化を理由に離婚した後は母子二人で暮らしていたけれど、お母様は貴方が六歳の時に病死。お父様は離婚後からずっと音信不通。行き場を失った貴方はやむを得ず、かつてお母様が身を寄せていた孤児院に引き取られた。でも、成人に至っても仕事先や養子としての受け入れ先を得られなかった貴方は、院長の後見で特別身分証明を発行された後、孤児院を出て今日まで空き巣を繰り返していた……そうでしょう? 「問題児の」クァイエット君」
 「……………………っ!!」
 「院長が嘆いていたわよ? どれだけ貴方に心を砕いても、貴方は全く聞く耳を持たないどころか、わざと反抗的に振る舞っていたって。貴方、そんなにアリア信仰が憎かったの?」

 上半身を前へ傾け、机の上で両手のひらに顎を乗せるプリシラ。その目に浮かぶのは……嘲笑だ。
 クァイエットの身上を語りながら、彼の過去を嘲笑っている。
 心の底から。
 冷たい目で。
 (あざけ)っている。

 「…………んな…………」
 「? なぁに?」

 「……っざけんな偽善者が!! 憎い? 当たり前だろうが!! お前らは母さんを見殺しにした!! 病気で動けなくなった母さんに、お前らは何もしてくれなかった!! 知ってたクセに……オレの事も母さんの事も!! 毎日毎日、オレがどれだけ真剣に回復を願って祈ってたか、知ってたクセに!
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