第三十三話 隻眼の男その四
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「どうにも」
「はい、どうも家中のどなたもです」
「知らぬか」
「その様です」
「してどの様な者じゃ」
「はい、小柄で右目が潰れており」
「隻眼か」
「色は黒く」
春日はさらに話した。
「片足を引きずっております」
「びっこであるな」
「左様です」
「それでは戦の場に役に立つまい」
片目でびっことなればとだ、晴信は言った。
「そうした者か」
「ですが何でも兵法と謀略、占いにです」
「長けておるとか」
「ご自身は言われていますが」
「ふむ」
ここまで聞いてだ、晴信は。
少し考えてからだ、こう春日に述べた。
「会おう」
「そうされますか」
「一体どの様な者かな」
「実際に会われて」
「そのうえでじゃ」
確かめたくなったというのだ。
「だからな」
「はい、それでは」
「その山本という者をじゃ」
「太郎様の御前にですか」
「連れて参れ」
即ちここにというのだ。
「よいな」
「さすれば」
春日も応えてだ、そしてだった。
その山本という男を連れてきた、見れば春日の言う通りの外見でそれだけではどうにも冴えない様子であった。
だが彼の残された左目を見てだ、晴信はすぐにわかった。そして己に一礼した彼に対してこう言った。
「お主、出来るな」
「自信があります」
「だからわしのところに来たな」
「これまで多くの戦の場を巡り」
「兵法の書もじゃな」
「読んできました、ですが」
「重く用いられることはなかったか」
こう彼に言った。
「そうであったか」
「無念ながら。先に今川家に仕官を申し出ましたが」
「断られたか」
「あちらには既に太原雪斎殿がおられこの外見の浪人です」
「これまで名の知られておらぬな」
「はい、その為にです」
まさにと言うのだった。
「今川家に仕官を断られ」
「そのうえでか」
「甲斐に参上しました」
「そうか、しかしじゃ」
晴信はここまで聞いて山本に問うた。
「わしのところに来たのか」
「最初に」
甲斐に入ってというのだ。
「そうしました」
「わしはまだ甲斐の主ではないが」
「いえ、太郎様ならばです」
「甲斐の主になりか」
「そしてそれからも」
甲斐の主になってからもというのだ。
「雄飛されるとです」
「そう思ったか」
「甲斐の国に入りお話を聞いて」
晴信のそれをというのだ。
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