第三十三話 隻眼の男その二
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「わしは断じて出来ぬ」
「はい、それがし達もです」
「その様なことはあって欲しくありませぬ」
「例え何があろうとも」
「ではですな」
「ここは」
「そうじゃ、兄上とお話をしてな」
そしてというのだ。
「どうすべきかお話しよう」
「左様ですな」
「太郎様にもお話しましょうぞ」
「そしてそのうえで」
「どうするのかを」
「決めるとしよう」
こうしてだった、信繁は甘利と板垣を連れてだった。
晴信のところに秘かに参上した、そのうえで彼に言うのだった。
「兄上、最早です」
「父上のことはか」
「はい、どうにもなりませぬ」
信繁は兄に危機に満ちた顔で話した。
「このままではです」
「わしは廃嫡じゃな」
「そうしてそれがしとなりますが」
武田家の次の主はというのだ。
「それがしはその気は毛頭ありませぬ」
「武田家の次の主はわしか」
「他に誰がおられますか」
兄にこうも言った。
「一体」
「太郎様、これは我等も同じです」
「我等も同じ考えです」
甘利と板垣も晴信に信玄の後ろから話した。
「武田家の次の主は太郎様です」
「他に誰がおられますか」
「これは家中の他の者達も同じです」
「皆この考えです」
二人だけでなく家臣達全てがというのだ。
「お館様の振る舞いは乱暴に過ぎます」
「太郎様のことだけではありませぬ」
「とかく乱暴です」
「民も戦続きで疲れております」
とかく戦でことを解決しようとする信虎の為にだ、甲斐の民達も困り果てているというのだ。
「ですから」
「ここはです」
「太郎様が立たれ次の家の主となられ」
「武田家と甲斐をお救い下さい」
「若し太郎様が立たれるならです」
「家臣全てが太郎様の下に集います」
「その言葉嘘ではないな」
晴信は甘利と板垣だけでなく信繁の目やその仕草まで見ていた、口調もだ。そのうえで言うのだった。
「三人共」
「それがしが嘘を言ったことがありますか」
信繁は兄に問うた。
「これまで」
「ない、お主はいつも誠実じゃ」
晴信もこう答えた。
「わしの弟でありよかったと思っておる」
「では」
「お主達の言葉嘘ではない、そしてじゃ」
「今兄上は立たなければ」
「わしは廃嫡されるやも知れぬ、甲斐と民達もじゃ」
国と彼等もというのだ。
「苦しむ、父上の治め方ではな」
「どうにもですな」
「成らぬ、何もな」
こう信繁に言うのだった。
「確かに我等は甲斐を一つに出来た」
「名実共に甲斐の守護になりました」
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「甲斐は貧しい、確かな政が必要でじゃ」
そしてというのだ。
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