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魔術師ルー&ヴィー
第二章
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 或りし日のゾンネンクラール皇国。その帝都にある城の庭に、三人の人影があった。
「マリアーネ!ほら、この薔薇。」
「綺麗…こんなに大輪の薔薇、見た事ないわ…!」
「君のために改良したんだ。花が咲いたら一番に見せたくて…。」
 深紅の薔薇の前で、二人は見つめ合う。が、その隣ではもう一人…取り残されたように佇む少女がおり、その少女は溜め息混じりに言う。
「お二方、幸せそうで何よりですわ。」
「シヴィー、そう膨れ面で言われても…。」
 男性に手を取られながら振り向いた女性…マリアーネ・マルクアーンは、そう妹のシヴィッラに苦笑しつつ返した。
 すると男性はマリアーネの手を引いて、今度はシヴィッラへと「こっちこっち!」と手招きをして場所を移動した。
「…?」
 シヴィッラは首を傾げつつも彼について行くと、小さな花をつけている蔓性の植物を見せられた。
「これは?」
 何だかよく分からずシヴィッラは眉を顰めたが、男性はニッと笑みを見せて言った。
「シヴィーはいつも木苺が小さくてジャムが沢山作れないって…そうぼやいていただろ?だから、これは実が大きくなる様に改良したんだ!」
「おお!」
 シヴィッラは男性の答えに目を輝かせ、その植物に見入った。それは木苺のそれよりも蔓が太く、葉や花も大きかった。
「早く実がならないかなぁ…。」
「おいおい…まだ花が咲いたばかりだってのに…。」
 男性はせっかちなシヴィッラに苦笑し、そんな二人をマリアーネが見て笑った。
 ここにいる男性こそ、ゾンネンクラールの第三皇子シュテットフェルトである。
 彼はやや茶色がかった金髪に緑の瞳、背は高い方ではあるが、些か痩せ気味な所が玉に瑕ではあった。剣の腕前は国でもトップクラスであり、自然や文学を愛する心優しい青年でもあった。
「皇子、妹にまで有難うございます。」
「皇子はやめてくれよ!もう婚約したのだし、そろそろ名前で呼んでほしいかな…。」
 そう言ってしょんぼりするシュテットフェルトに、マリアーネは少し顔を赤らめて返した。
「それでは…シュテットフェルト…様…。」
「長い上に様付なんて…。」
 益々しょんぼりするシュテットフェルトに、今度はシヴィッラが事もなげに言った。
「シュティで良いのでは?」
 何やらコメディにでもなりそうな略し方だったが、当のシュテットフェルトはどうやら気に入ったようで、目を輝かせてマリアーネを見た。
 そんな彼にマリアーネは根負けし、クスッと笑って言った。
「分かったわ、シュティ。」
「うん!」
 この時、マリアーネ十六歳、シュテットフェルト十八歳、そしてシヴィッラは十四歳であった。
 シュテットフェルトは何にでも興味を示す皇子であった。他国の歴史や産業、自然の形態や宗教、はたまた天体や四季の農作物…詩や音
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