悪意の牙、最悪の謀 (後)
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もアルケイデスはクー・フーリンからの打撃を如何に受けようと次の瞬間には回復しているのだ。一方的に消耗していくクー・フーリンは、しかし微塵も衰えぬ闘志を燃やしている。次第にクー・フーリンは真の姿を見せ始めていた。全身の筋肉が膨張し、身長がヘラクレスに比するまでに筋骨が拡張されていく。しかし理性を手放すものかと懸命に堪えた。本能で暴れる訳にはいかない。
アルケイデスは沸騰する闘争本能に身を委ね、過去最大の強敵との殴り合いに奮い起っていた。まだだ、まだまだこんなものではないだろう、さあ魅せてみるがいい、抑えている力を解放しろ。無駄な自制を捨てろ――! 醜い神性を解放するがいい!
アルケイデスの乱打にクー・フーリンの意識野が白熱する。無駄なのか、堪えるのは。自問が過る。だがその自制は無駄ではなかった。
その、自らの『槍』の奮闘の熱気が、気絶し掛けていた士郎の意識を覚醒させたのだ。
オルタが懸命に魔力を送り彼の中の聖剣の鞘が稼働していたお蔭でもあるのだろう。オルタを押し退けて立ち上がった士郎が改造した礼装、カルデア戦闘服の機能を使用する。
サーヴァントを強化する支援魔術――『瞬間強化』だ。クー・フーリンの四肢に活力が戻る。のみならず一瞬のみ、明確にアルケイデスを凌駕した。ギラリとクー・フーリンの眼が光る。殴打の雨に晒され外骨格が破損した故に、拳を覆う紅棘は折れている。剥き出しの拳がアルケイデスの反応速度を超えて顔面に突き刺さった。
真の姿を晒す宝具は治まる。人間としての姿に戻り、身長や筋力も元に戻った。展開されていた外骨格の鎧も限界を迎え消え去っている。破損が酷く、投影品のそれでは耐えられなかったのだ。
だがそれで充分。想像を超えたクー・フーリンの拳?によって、アルケイデスは魔槍を手放してしまっていた。踏鞴を踏んだ彼は、手を伸ばしても巨槍に届かないギリギリの間合いに押し退けられてしまった。
「これで終いだァッ!」
「いいや、まだだ!『射殺す』――」
武芸百般の大英雄は、徒手空拳であっても奥義を放てる無双の勇者である。魔槍の真名解放よりも先んじて放てる。
踏み込む。激甚なる体捌きが、今に魔槍を放たんとする光の御子の懐に潜り込ませた。
もはや回避は出来ない。この奥義を以て最大最強の好敵手を葬らん――!
「令呪起動――」
アルケイデスはハッとした。クー・フーリンの目が死んでいない。焦っていない。これは一騎討ちではなく、信頼する主人の指示を待つ猛犬が、牙を剥くタイミングを測っていたのだ。
失策を悟る。狙うべきは光の御子などではなかった。初戦でも、二度目の時も、己を撃退し、打ち負かしたのはあの男だったではないか。不覚を喫したと、アルケイデスは悟り――穏やかに、微笑んだ。
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