海賊の誉れは悪の華
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中には、これほどの腕利きの銃や剣の名手はいなかった。これほどの気狂いもいなかった。故に称賛する。ああ、お前らの力は、確かにこの黒髭を殺せるもの。誰か一人でも欠けていれば力業で殺せるが、三騎という数がバランスの妙だった。紙一重で黒髭は殺される。それを覆せる力が黒髭にはない。
しかし――だからこそ、黒髭は嘲笑し勝ち誇るのだ。
「――莫ぁ迦が! ここはどこだ? 俺の船だろうが! ならよぉ……俺の船で俺の僕を出せない訳ねぇだろッッッ!」
元より海賊、黒髭は己の武略によってのみ生きたに非ず。その奸智と悪逆によって台頭した悪党である。
己にトドメを刺さんとした三騎の脚を、甲板の下から伸びた腕が掴んだ。低級霊、実体がないまま実体のあるものに触れる亡霊である。彼らとの交戦で一度も海賊の亡霊を呼び出さずにいたのは、この一瞬のため。
亡霊が比翼の女海賊の脚を掴み、下から這い出た亡霊が腕を押さえ、首を絞め非力な女海賊らの身動きを拘束する。血斧王は無理矢理にでも襲い掛かって来たが、それでも動きは大幅に鈍っていた。
容赦なく、無慈悲に。それこそが慈悲なのだとエイリークの首に腕を回して、脇に挟むと一息に圧し折った。どぉ、と倒れ伏す血斧王が霧となって消えていくのを見もせずに、完全に拘束された比翼の女海賊らに歩み寄る。もがく彼女らの、黒く染まった霊体に目を眇め、黒髭は呟く。
「あばよ」
別れの言葉はそれだけだ。脳天に銃弾を一発ずつ撃ち込む。比翼故に片方を撃つだけで両名とも消えるが、彼女らの誇りは片割れのみの脱落をよしとしないだろう。
――なんだよ。最初からそうだったら素直に敬ってたのにさ。
――さすが、と言っておきますわ。船長?
比翼らが口々に嫌みと皮肉を投げて寄越し、消滅していく。
エドワードはふらふらとよろめき、柵を背にして座り込んだ。聖杯の嬰児が駆け寄ってくる。急いで治すわ、と。それに黒髭は嗤った。こんなにも無垢で、善良な彼女が、悪党を救おうとしている。それがおかしかった。荒々しく、しかし優しく、紳士的に押し退ける。
「要らねぇよ。ほっといてくれや」
でも、その傷だと貴方は! そう反駁する聖母に、黒髭は嗤いを深める。
「安心しな、簡単にくたばりゃしねぇよ。今はちょいと、感慨に浸ってたくてな」
重い声音である。聖杯の嬰児アイリスフィールは悟ったように目を見開き、そっと傍から離れていく。
ああ――いい女だ。男の感傷を理解してくれるなんざぁ。ったく、俺はどうして、そんな女と縁がなかったのかねぇ。
「悪党だからな」
鼻を鳴らし、エドワードは自らの黒髭に触れる。そこには先刻、同盟相手から押し付けられたものがあった。勝利の美酒の代わりだ、やっとけよ、と。血を吐いて、散
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