43部分:四十三.春の暮つかた
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四十三.春の暮つかた
四十三.春の暮つかた
春も深まってぽかぽかとしたのどかでしかもとろけそうな空の下で品も悪くない家に庭木も年代を感じさせるものがあって花は庭にしおれてしまって散ってしまっていました。やはり覗かないでいられなくついつい中に入ってしまいました。南側の窓は閉じられていて実に寂しそうなものでありました。東側の方は戸が少し開いていまして覗くのにうってつけでした。その隙間にかかっている覆いの綻びから覗いてみますと素晴らしく可愛らしい顔立ちの二十歳かその辺りの青年が放心しておりました。ですが彼は奥ゆかしい態度でしかも落ち着いておりまして机の上に本を開いてそれを見ています。ただそれだけなのでありますがその青年からは実にいいものを感じ取ることができました。まだ若いのですがどうやら只者ではない、そうしたことまで感じ取らせてくれる素晴らしい青年であります。
あの青年は一体どのような人だったのでしょうか。今度は遊びに行きたいものです。どうやら只者ではないでしょう、そこにあるものは実に深いものであることを感じさせる面持ちでありました。だからこそまた今度行ってみたいと思うのであります。春の深くなってきた時に観たあの家と青年は実にいいものでありました。今思い出してもそのことを感じて深い気持ちに浸ってしまいます。ふとしたことで見たこともそれがよいものである、まことに世の中というものは面白いものであります。
春の暮つかた 完
2009・5・29
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