幕間「決戦寸前、号砲を撃て」
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前に控えようと縮み上がる肝っ玉など有りはしない。大胆不敵に海を奪おうとする不逞な輩を撃沈せんと、彼らは激越な怒号を鬨として吼えた。
意気火炎にして士気軒昂、進む船の舵は波を掴み、帆は嵐を捉え、主の意思が乗り移ったよう進み続ける。
不思議な……そう、不思議なまでに静かな……凪いだ時が流れていた。
海穏やかならずとも、悪の旗と自由の旗の下にある船員は凪いだ心境で佇む。
しかしその薄皮一枚下で、ぐつぐつと溶岩のように煮えた戦意が燃え盛っていた。
甲板にて槍兵が胡座を掻き、魔槍を抱いて瞑目している。柵に手を置いて周囲を警戒する盾兵は落ち着けない空気に震えを抑え、白髪の男が肩を叩いて蒼穹の心象のままに微笑んだ。
黒き聖剣王は不動のまま。錬鉄の弓兵は鷹の目を細め。薔薇の麗人は覇気を纏ってその時を待っている。聖杯の嬰児が緊張の坩堝に体を強張らせているのに、和装の巫女はたおやかに励ました。
時が近い、刻々と進む船は、地平線の果てまで陸の見えない大海原へと到達している。
全員が感じている。強大な海の果てが壁となり自分達を押し潰そうとしていると。戦慄に総毛立つ者もいる中で、時間の流れが停滞していく錯覚に決戦の訪れを予感した。
「――見えたぞ」
マストの上で遠くを臨んでいた錬鉄の弓兵が、赤い外套をはためかせるまま告げる。
その声は嵐の風に負けず、全員の耳に届いた。豪雨が降り始めている。垂れ幕のように視界を塞ぐ雨粒の弾幕は、しかし鷹の目を遮れない。暴風の向こう側から、一隻の船が見えてきていた。
ゆっくりと立ち上がった槍兵を尻目に、カルデアから通信が入ったのに衛宮士郎が応答する。
『マスター』
「なんだ、アグラヴェイン」
『敵サーヴァント反応、アルケイデスのものもある。それから出力の安定した宝具の存在と……この特異点の元凶である聖杯の反応も確認した』
真っ向切っての総力戦である。宝具とやらは船であろうと察しがつく。
好戦的に構える荒くれ者に、士郎が淡々と指示を出した。
「エドワード、頼むぞ」
「だぁっははははドゥフフwww 合点承知の助さぁ!」
己の太腕を叩き、ぐっと力瘤を作った巨漢が多数の低級霊を召喚する。その数は少なく見積もっても千は下らない。彼は此処で全てを出し切るつもりでいる。
士郎は己の手の甲を見た。全ての令呪を使い切り、先ほど一画だけ回復した。ネロは二画の令呪がある。やれるか、と思う。やれるさ、と呟く。アグラヴェインが巌のような声音で告げた。
『敵サーヴァントの反応は――八騎だ』
一瞬、間が空く。楯の少女が目を剥いていた。そんな、と。しかし彼女の頭を撫でる男に動揺はない。やはり隠し球はあるか、と。微塵も揺らがない士郎に、マシュ
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