第百十七話
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第百十七話 終わらせてこそ
博士は小田切君にさらに話した。
「とにかく文学も絵画も彫刻もな」
「全てですね」
「完結、完成させてな」
「そうしてこそですね」
「その作品に命が宿るのじゃ」
「命がですか」
「そうじゃ、宿るのじゃ」
そうなるというのだ。
「人は生まれた時に命が宿るが」
「小説とかはですね」
「完結、完成した時にじゃ」
まさにその時にというのだ。
「命が宿るのじゃ」
「そうしたものなんですね」
「だから青い花もまだ命が宿っておらんしのう」
「他の作品もですね」
「夏目漱石の明暗にしてもな」
この作品も未完である、他ならぬ漱石が持病の胃潰瘍を悪化させてしまって急死してしまったからだ。あと少しで完結というところでそうなってしまったのだ。
「命が宿っておらん」
「それじゃあ絵になりますが」
この分野のことからだ、小田切君は話した。
「モナリザは」
「ダ=ヴィンチ自身が言っておるな」
「未完だって」
「わしもあれは未完とは思えぬが」
「作者がそう言うのなら」
「未完であろうな」
博士は首を捻って考えつつ述べた。
「命が宿っておらん」
「そうなるんですね」
「うむ、完成している様に見えるが」
「何処が未完成か」
「あれはわからんな、色々と言われておる作品じゃが」
その不思議な目が笑っていない微笑みやモデルになった人物が一体どういった人物かであることもだ。
「それでもな」
「あの作品も命はですか」
「宿っておらんな、そして文学に話を戻すが」
「完結させることがですね」
「やはり第一じゃ」
何といってもというのだ。
「どの様な作品でもな」
「一旦書きはじめたらですね」
「完結させることが作者の義務であるからのう」
博士はマカロンを口の中に入れつつ述べた。
「まさにな」
「完結させて命を与える」
「そこはしてもらいたいものじゃ」
作者にはとだ、博士は真剣に言った。そしてそのうえで今度はコーヒーを飲んだ。甘いものも飲みものも楽しんでいた。
第百十七話 完
2018・12・26
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