ターン5 多重結界のショータイム
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鳥居浄瑠が戦いを始めていた、ちょうどそのころ。ドーム状の建物を前に片手で風を避けながら、咥えた煙草にライターで火をつける女が1人いた。燃えるような赤髪が夜風に揺れ、細い煙がそれに乗って流れていく。ドーム内部での喧噪も、充実の防音設備によって彼女の元までは届かない。
それが誰、などとは言うまでもない。赤髪の夜叉、糸巻太夫である。体の線を惜しげもなく強調する黒のライダースーツ姿は、闇夜にあってひときわ目立つその赤髪も相まって近くに人間がいたらさぞかし人目を惹いたことだろう。もっとも、今この場には彼女しかいない。表向きはあの会場も工事中の建物であり、街灯すらもついていないからだ。そんな場所に好き好んで入りたがるのは、それこそ訳ありか自殺志願者ぐらいのものだ。
「ふーっ……」
ここまで乗ってきたらしいバイクに腰かけ、退屈そうな表情で煙を吐く。その姿は、まるで何かを待っているようだった。いや、事実彼女は何かを待っている。なんとはなしに丸めた紙を取り出し、ガサゴソと広げて中身に目を通す。昼間にも鳥居に見せた、今頃行われているであろう裏デュエルコロシアムのトーナメント表である。そのまま目を落としたのは、その中の名前の一つ。シード枠にエントリーされた、7人目のデュエリスト……彼女は、その名前に覚えがある。あれは、まだデュエルモンスターズに活気があったころの話。若かりし彼女自身が、そしてかつての仲間が、大歓声を受けて日夜しのぎを削っていた栄光の日々。
だが、回想にふける時間は与えられなかった。代わり映えしない風景から特有の勘で何かを感じとったその目に力がこもり、バイクから降りてぱっと身構える。たっぷりと煙を吐き出すと、一度煙草を口から外し闇の中に向けて話しかけた。
「思ったより遅かったじゃないか、ゆっくりでいいから出ておいで」
「……」
闇の中から返事はない。だが確実に、無言のまま動揺する気配だけは伝わってきた。どうあっても自分から名乗る気がないのならと、ゆっくりとした手つきで腰かけていたバイクのハンドルに手をかける。そして次の瞬間、おもむろにエンジンをかけながらその向きを大きく回転させた。
「む……!」
瞬間的に点いたライトが、光の線を闇にくっきりと差し込む。そしてその中央には逃げ損ねた、黒いスーツ姿で闇に同化していた男の姿がくっきりと映っていた。年はせいぜいこの事件の発端となったコンビニ強盗のチンピラと同程度だろうが、全身から立ち上る気配の質はまるで違う。こういった闇家業を生業として生きてきた、プロ特有の匂いを彼女は敏感に感じ取る。おおかた、今回の用心棒役か何かだろう。
「元プロ舐めんじゃないよ。昔はやべーファンだって多かったからね、そんな程度じゃ尾行にもなってない」
「……気づいていたようだな」
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