第百十六話
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第百十六話 人間的成長は
博士は小田切君に真剣な顔で話した。
「言っておくがわしは人間もあらゆる生物も嫌いではない」
「小悪党が嫌いでもですね」
「生物自体は嫌いではない、小悪党以外を不必要に殺したことはない」
小悪党は不必要に殺している。
「滅ぼしたこともない」
「博士のポリシーに反するからですね」
「そうじゃ、わしはあくまで小悪党を殺すだけじゃ」
遊びで殺したり生体実験の素材にしてだ。
「それ以外はせん」
「決してですね」
「うむ、そして人間が生み出した芸術も愛しておる」
「だから文学にも親しまれていますね」
「左様、それで青い花もじゃ」
ノヴァーリスの青い花もというのだ。
「読んでおったが」
「作者が死んだらどうにもならないですね」
「構想はわかっておるがな」
「そうなんですか」
「作者がそうしたことを書いた文章を残しておる」
そうしたものが残っていてというのだ。
「だからじゃ」
「どういった展開になるかはわかってるんですね」
「作品自体が終わっておらんから実際はわからぬが」
執筆中に作品の展開が作者の当初の構想から違ってくることはよくあることだ、日本では週刊少年ジャンプの作品は心霊推理から格闘漫画に変わったことがある。
「しかしな」
「構想から推察されますか」
「うむ、しかし終わっておらぬ」
「そのことは厳然たる事実で」
「わしは今も残念に思っておる」
「それは残念ですね」
「誰か続編を書いて欲しいが」
博士はこうも言った。
「金色夜叉の様にな」
「作者は違っても終わることは事実ですからね」
「曲がりなりにと言ってもよいが」
それでもというのだ。
「終わることは事実じゃ」
「やっぱり作品は簡潔させないと駄目ってことですね」
「完結させてこそ作品は眠れるのじゃよ」
「安らかにですか」
「そして幸せに生きられるのじゃ」
作品としてそうなるというのだ。
「だから大事なのじゃ」
「そうですか」
「うむ、だから青い花は残念でじゃ」
「誰かが完結させて欲しいですか」
「最近の日本のライトノベルの様にな」
作者の志を継ぐ人が出て、というのだ。作品は十九世紀だが二十一世紀になっても思う博士であった。
第百十六話 完
2018・12・19
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