第五章
[8]前話
「海を越えるとな」
「プレスター=ジョンの国に行ける」
「この海を越えれば」
「それが出来ますか」
「船乗り達に聞いたが」
王子は船酔いするので船に乗れない、だが海への憧れは非常に強く彼等からの話もよく聞いているのだ。
「実は南には島々があるそうだ」
「そうなのでか」
「ポルトガルの南のこの海から先に」
「島々があるのですか」
「そしてその先もあるそうだ」
島々からさらにというのだ。
「その先に行ってだ」
「海からですか」
「海からアフリカに到達し」
「そのうえで」
「プレスター=ジョンの国を発見してだ」
アフリカにあるその国にというのだ。
「その国に使者を送りだ」
「同盟を結び」
「そして、ですね」
「共にオスマン=トルコと戦う」
「そうしてトルコを倒しますか」
「そうしよう、よくここから南に世界の果てがあるというが」
この時はよくそう言われていて通説になっていた。
「それはない」
「ないのですか」
「島々があり」
「そこから先がありますか」
「世界の果ては断崖で船が海の水ごと落ちてそこにいる怪物の餌食となる」
これがその通説であったのだ。
「よく言われているが」
「それは間違いである」
「王子はそうお考えですか」
「それ故に」
「船乗り達を集め船を建造するのだ」
王子は今高らかに宣言した、黒い見事な髪に日に焼けて浅黒くなっている肌がよく似合う端正な顔で。
「そして彼等に先に進ませてだ」
「プレスター=ジョンの国を発見する」
「そうしますか」
「そうするのだ、必ずな」
こう言って船を出させるのだった、全ては偉大なキリスト教の国を見付ける為に。
この時も結局プレスター=ジョンの国は見付からなかった、この国は存在しなかったのだ。今となっては歴史上の笑い話となっているかも知れないが当時の欧州の者達は彼等のおかれた状況から真剣に信じていた。そして最後はこの想いが大航海時代につながっていく。全ては歴史の不思議な物語の紡ぎと言うべきであろうか。
プレスター=ジョン 完
2019・1・13
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